金田一少年の事件簿(高遠×金田一)
薔薇十字館 If〜最期〜
謎を解かれ追い詰められたジゼルが隠し持っていたナイフで金田一に襲いかかる

「ーーー!!」

突然の出来事に避ける間などなく、金田一は刺されるのを覚悟して思わず目を閉じた


グサッ――‥


襲ってくるはずの衝撃と痛みが無いことに気付いた金田一が恐る恐る目を開けると、その金田一を庇うように高遠がジゼルとの間にその身を割り込ませていた

「っ…」

ジゼルの持っていたナイフがその勢いのまま高遠の腹を貫く

「高遠!!?」

その行動はジゼルも予想外だったようで、気の緩んだ一瞬の隙をみて高遠はジゼルの首筋に衝撃を与え気絶させた

「高…遠…?」

ぐらりと傾いた身体を金田一は慌てて抱き止めるが、気を失っているのか高遠は瞼を閉じたままだ

「高遠!おいっ高遠!しっかりしろ」

金田一が半ば叫ぶように呼ぶと高遠は鬱陶しそうに目を開いた

「…そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえていますよ」

とりあえず高遠が目を開けたことに安堵する金田一

「なんで俺を庇ったりなんか…」

「今回の件に君を巻き込んだのは私ですからね…君に死なれちゃ寝覚めが悪いでしょう?」

高遠は薄い笑みを浮かべるものの、その顔は蒼白だ

「くそっ、血が止まらない」

必死に傷口を押さえて止血を試みる金田一を高遠は不思議そうに眺める

「それより君こそ、どういうつもりです?私を助けようなどと…君と約束した通り、もし私が警察に出頭して捕まれば私はどのみち死刑になる。いまここで死んだところでそう大差はないはず…」

「違う!アンタは法で裁かれるべきだ。こんなところで死ぬなんて許さないからな」

「フッ 相変わらず君は甘いですね…いつか、その甘さが命取りになりますよ」

高遠の腹からは血が止めどなく流れ出て衣服を真っ赤に染めている

「少し黙ってろ!」

「地獄の傀儡師といえどただの人間ですからね…さすがに限界の様です――‥」

出血のため朦朧としてきた意識をなんとか保っていた高遠だったが、徐々に感覚が薄れていく

自らの最後を悟った時、自然と笑みが零れた

「金田一君…ありがとうございます…」

「?」

「君のおかげで私は凶悪殺人犯“地獄の傀儡師”ではなく“高遠遙一”という一人の人間として死ぬことが出来る…」

まるでそこに何かを見ているかのように虚空を見つめながら、高遠は呟いた

「今まで沢山の人の命を奪ってきた私が、まさか人を…それも私の芸術をことごとく壊してきた憎い相手を庇って死ぬことになろうとは想像していませんでしたよ」

言葉ではそう言っていても実際、高遠は金田一を憎んではいなかった

むしろその逆で、今回のことにしても真っ先に彼の顔が浮かんだのはその実力を認めているからで…

その彼が自分のせいで、ましてや自分が立てた犯罪計画以外で死ぬことなどあってはならないことだった

「君と…もう勝負が出来なくなるのは残念ですが、このまま君の腕の中で死ぬというのも悪くない…」

人の温もりなど、もうずっと忘れていました――

そう言う高遠の表情は幸せそうで、金田一は泣きそうになった

「高遠…」

ゴホッ…ゴホッ、ゴホッ…!

刹那、激しく咳き込んで高遠は大量の血を吐いた

身体が小さく痙攣して呼吸も徐々に浅くなっていく

「高遠っ…!」

高遠は金田一の目を真っ直ぐ見つめ、そっと金田一の頬に手を添えて、

そしていつもの不敵な笑みを浮かべる





「good rack 金田一君」




それが地獄の傀儡師の最後だった

金田一の腕に抱かれたまま静かに目を閉じた高遠の顔は穏やかで、まるで眠っているようだった

「高遠…」



決して交わることのない平行線


けれど高遠は最後の最後で犯罪者の仮面を取り、素顔の“高遠遙一”として死ぬことを望んだ


どこまでも続く平行線が交わった瞬間だった――‥




fin.

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