金田一少年の事件簿(高遠×金田一)
薔薇十字館 if〜熱〜
目の前の男がどこかいつもと違うと感じたのは気のせいだろうか

皆が凶悪犯罪者の高遠を犯人だと決めつけ、閉じ込めようとしている

それを素直に受け入れる高遠に何故か腹が立った

「待てよ!」

掴んだ手が熱い

「高遠、もしかして熱があるんじゃ…」

「気のせいですよ。離してください」

金田一が言い終わらないうちに高遠は手を振り払う

「さて、私は部屋に戻るとしましょう。あとは外から鍵を掛けるなり扉を塞ぐなり好きにすればいい」

そう言い残して部屋に戻ろうとする高遠を引き止めようとした瞬間、高遠が体勢を崩して壁に寄りかかった

金田一が額に手を当てるとかなりの熱がある

「アンタ、こんな状態で…」

「私のことは放っておいて下さい。大人しく部屋で休んでいれば治ります」

高遠を無視して金田一は美雪に声を掛ける

「美雪、悪いけど後で氷水とタオル、それに体温計持ってきてくれ」

「はじめちゃん…?」

「俺は一緒にこいつの部屋にいるよ」

そこにいる全員が金田一を見た

「何考えてるんですか!?そこにいるのは殺人犯なんですよ!!」

「んーでも今回はコイツが犯人じゃないからさ」

「だからって…」

「金田一君、私なら一人で平気です。皆の言う通り殺人犯の私といたら殺されてしまうかもしれませんよ?」

そんな高遠の脅しにも金田一は余裕で答える

「アンタはそんなことしないよ。それに、もし俺を殺すとしたらもっと芸術的に、だろ?」

そう挑発的に言い返せば観念したのか高遠は小さくため息をついた

「…好きにしてください」

「じゃ、決まりだな」








「全く…君も物好きですね。私は君にとって憎むべき相手だ、なのになぜこんなことをするのか私にはさっぱり分かりませんよ」

熱がある高遠をとりあえずベッドに寝かせ、額に冷たいタオルを当ててやると心なしか高遠の表情が和らいだ

ピピッという体温計の音に金田一が反応する

「どれ?うわっ、40度近くあるじゃん。アンタよくこれでフラフラ出歩けたな」

「別に…これぐらい大したことありません」

そうは言っているもののさすがに辛いのか息が荒い

「水飲むか?」

僅かに高遠が頷くと、金田一は高遠の身体を起こし少しずつ水を飲ませる

水を飲み終えた高遠が横になるとその身体に布団をかけてやり、金田一はそっと席を立つ

「しばらく休んでろ。後で美雪にお粥と薬持ってきてもらうから」

「ええ、ではそうさせてもらいます」

少しして高遠が眠ったのを確認すると、金田一も側のソファーに腰掛けて事件の真相を考えていた

時折、高遠の額のタオルを替える為に側に近づいても目を冷ます気配の無いことに少し驚いた

(何か意外だな…近寄れば絶対目冷ますと思ったのに)

高遠らしからぬそれに、それだけ堪えているのか、と納得する



コンコンー



「はじめちゃん、お粥と薬持ってきたけど…」

「おお、サンキュー」

「ねぇ本当に大丈夫なの?何もされてない?」

心配そうに聞く美雪に金田一は大丈夫だって、と笑って返す

お粥を持って高遠の部屋に入ると、ちょうど目を冷ました高遠が美雪に気付いて声を掛ける

「おや、七瀬さんもいらしてたんですか。すいません、お見苦しいところをお見せして」

丁寧な言葉と物腰だけを見ていると、目の前にいるのが何人も人を殺めた殺人犯だとはとても思えない

「いえ、その…大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとうございます」

「じゃ私はこれで…ゆっくり休んでくださいね」

美雪は緊張したようにペコリと頭を下げて部屋を出ていった







「ほら、お粥と薬持ってきて貰ったから」

金田一がお盆に乗ったお粥を持ってベッドに近付く

「折角ですがあまり食欲が無くて…」

「駄目。少しでも食べなきゃ薬飲めないだろ?」

高遠は少し考える様な仕草をしたあと、口を開いた

「…分かりました。その代わり、君が食べさせて下さい」

「は!?」

「そうじゃなければ私はこのまま寝ますので、それは君が食べて下さい」

「なんでそうなるんだよ!」

「別に私はどちらでも構いませんよ?」

意地の悪い笑みで金田一を見る





「…………ほら。」






嫌々ながらも、スプーンにお粥を少し乗せて口元まで持っていくと、高遠は口を開けてお粥を一口食べた

そしてからかうように金田一を見る

「ったく、なんで俺がこんなこと…」

金田一はブツブツ言いながらも高遠の口にお粥を運んでいたのだが、高遠は2、3口食べただけでもう十分だと言う

「まだほとんど食べてないじゃん。もう少し食べれないか?」

「いえ、本当にもう…」

熱が上がってきたのか少し苦しそうだ

「しょうがないか、じゃ薬だけ飲んでから寝ろよ?」

薬を飲ませてから寝かせると、高遠はすぐに眠りについた

本当はお粥も金田一の為に無理矢理食べたのだろう

それから何度か額のタオルを替えてやるが熱は一向に下がらず、金田一は明け方まで高遠の側で看病を続けた



朝、目を冷ました高遠が額に手を当てるとだいぶ熱が下がってる

まだ頭が少しボーッとするが、とりあえず喉が渇いたのでベッドから起き上がってキッチンに向かう





「ん…あれ?高、遠?」

目を冷ました金田一は隣に高遠がいないことに気付き慌てて部屋を飛び出す

するとキッチンで水を飲んでいた高遠が小さく笑う

「おはようございます、金田一君。どうしました?そんなに慌てて。もしかして私が逃げたとでも思いましたか?」

図星を衝かれ咄嗟に言葉に詰まる

「起きてて大丈夫なのかよ?熱は?」

「おかげさまでだいぶ下がりました。夜通し看病してくれたんですね、ありがとうございます」

急に改まって言われると少し照れ臭い

「金田一君、君には借りが出来てしまいましたね。本来なら犯人には私を陥れた罪をその命で償ってもらいたいところですが、君に免じて今回は手を下さないと約束しましょう」

「本当だな?」

「ええ、私は約束は守ります。今回の件が片付いたらちゃんと警察へも出頭しますよ」

高遠がすんなり捕まっているとは思えないが、剣持も今回の刑務所は脱獄不可能だと自信をもっているみたいだし、ひとまず高遠の言葉を信じることにした金田一だった

とりあえず今は高遠の異母妹と犯人を探し出し、無事にこの薔薇の迷宮から出ることが先決だ

その為にはもうしばらくこの高遠と協力して事に当たらなければならない

正直、高遠という凶悪犯と四六時中一緒にいるのはかなり疲れるし気を使う

しかし心のどこかで少しばかりそれを楽しんでる自分がいることも否定は出来ない

金田一は高遠を見つめ小さくため息を吐くのだった





fin.

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あきゅろす。
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