オリジナル小説
別れの理由
「亮は何にも分かってないのね…もう別れましょう」
 
 
そう言われてから亮は彼女だった真由香の事ばかりを考えていた
 
 
いきなりそんな事を言われ亮はただ困惑するばかりだ
 
 
確かに最近は、付き合いたてみたいな甘い雰囲気では無く、どことなく距離は感じていたものの、亮は確かに真由香を愛していた
 
 
亮は元々短気だったので些細な喧嘩はあったものの、これといって思い当たる節は無かった
 
 
亮は最近までチームの頭をやっていて、短気で喧嘩っ早い性格も災いしてか他校からも恐れられていた
 
 
そんな亮も真由香と付き合いだしてからは足を洗い真面目に学校にも行くようになっていた
 
 
亮は突然別れを告げられた理由を聞きたくて真由香に連絡を取った
 
 
何日か過ぎた頃、真由香から
「明日の1時に近くの公園で、もう一度だけ会うわ」
という返事が返ってきた 
 


今日は真由香と会う日
 
 
出来ることならもう一度付き合ってた頃に戻りたい
 
 
離れてみて始めて真由香の大切さが分かった
 
 
そして、まだこんなに真由香を愛している事も…
 

ピーンポーン――‥
 
 
 
不意にチャイムが鳴った 
 
亮は相手を確認もせず玄関を開ける
 
 
 
グサッ――‥
 
 
 
「…っ」
 
 
亮は襲ってくる痛みに顔をしかめながら今の自分の状態と相手の顔を見た
 
亮の腹にはナイフが深々と刺さっており、手で傷口を押さえると真っ赤な血が付いた
 
 
相手は亮が頭をやっていた時、何かと争っていた別のチームの幹部だった 
 
亮がチームを抜けたのを“逃げた”と思い込み、今までの仕返しと言わんばかりに家まで来たのだった
 
 
「…っ、テメェ等舐めた真似しやがって…ハァハァ」 
 
「お前が悪いんじゃねえか!!逃げてんじゃねぇぞ!」
 
 
「俺は逃げた覚えはねぇ!…文句があるなら直接言えよ……クッ…ハァハァ」
 

「うるせぇ!せいぜいそこで苦しんでな…ヘッ」
 
 
そう捨て台詞を吐いて亮を残し去って行った
 
 
残された亮は玄関を閉めるとその場にうずくまり苦しそうに息をつく


亮の顔からは血の気が失せ、傷口からは血が流れて服を真っ赤に染めている
 
 
「…よりによってこんな時に…ハァハァ」
 
 
今日の1時にもう一度だけ会うわ――‥
 
 
真由香の言葉が思い出される


「取り敢えず血を止めないと…クッ」
 
 
亮は痛む傷を抱え立ち上がる
 
 
そばにあったタオルを傷口に当てベッドへ向かった


足取りは重く、時折壁に寄り掛かりながら何とかベッドまで辿り着いた亮はそのまま崩れるように倒れ込んだ
 
 
そのまま暫くベッドで休んでいたが、時計が11時に差し掛かった辺りで起き上がり出掛ける支度を始めた


血で汚れた服を脱ぎ、濡れたタオルで傷口のまわりに付いた血を拭く
 
 
止血をしたので血は何とか止まったが、傷は相当なもので、動く度に襲ってくる痛みに耐えながらやっとの事で手当をし、服を着替えた
 
 
「ハァ…何とか出来たな…痛っ…クソッ」


そうこうしているうちに、真由香との待ち合わせ時間が近付いてきた
 
 
亮は痛みに耐えながら呟く
 
 
「頼むから…今日だけ…真由香と会う間だけでいいから…もってくれ」
 
 
 


待ち合わせ場所にはまだ真由香は来ておらず亮は近くのベンチに腰掛ける
 
 
「やべっ…緊張してきた」
 
 
少しして真由香がやってきて亮の隣に静かに腰をおろす


「久しぶり…元気だった?ちょっと痩せたね」
 
 
真由香は俺と別れてからどうしてたんだろう
 
 
もしかしてもう新しい彼氏いたりして…
 
 
「そうか?そっちはどうなんだよ…その…俺と別れたから…新しい彼氏とか、さ」


「ふふっ そんな事気にしてるんだvv」
 
 
「俺は!…その…今でも真由香の事………好きだから…」
 
 
最後の方は聞こえるか聞こえないかの小さな声になってしまった
 
 
真由香は敢えて話を逸らすように話題を変えた
 
 
「ねぇ、それより学校は行ってるの?」
 
 
「…ん?ああ…一応な…」
 
 
真由香と他愛もない話をしていた亮だったが、しばらくするとさすがに傷が痛むのか俯いて痛みを堪えている様だった


「亮?ねぇ聞いてるの?亮ってば!」
 
 
「…ぁぁ…聞いてるよ…ハァハァ」
 
 
額には汗が滲んでいて、呼吸も荒い。
 
 
真由香も亮の異変に気付き、心配そうに覗きこむ 
 
「どうしたの?苦しいの?」
 
 
「…何でもない…っ」
 
 
しかし、亮は気付かれない様に俯くのがやっとだった
 
 
「何でもないって……いつもそうなのね…一人で抱え込んで、私には頼ったり相談もしてくれない――‥
私ってそんなに頼りない?信用できないのかな?私、亮といてもいつも不安で…寂しかったわ」
 
 
亮が思いも寄らないところで、真由香は深く傷付いていたのだ
 
 
亮には今の真由香に掛ける言葉が見つからなかった
 
 
「もういい…帰るね…」


そう言って、席を立つ真由香を引き止めようと亮はベンチから立ち上がった
 
 
「待って!!」



ズキンッ――‥
 
 
 
「ぐっ…ッ」
 
 
 
襲ってきた激痛に耐えられず呻いてその場に屈み込む
 
 
「亮!?しっかりして!亮!大丈夫!?」
 

「…っ…ハアハア…大…丈夫…だか…ら…ハァ」
 
 
「大丈夫って、血が出てるじゃない!!」
 
 
押さえている腹部からは真っ赤な血が滲んでいた


「…たいした事…ない…から…ハァハァ」
 
 
そう言ってはいるものの亮の顔からは血の気が引き、額には脂汗をかいている
 
 
「たいしたことないって…またそうなの?私には言えないの?私だって亮のこと心配してるのに」
 
 
涙ぐむ真由香を見て、亮は観念したのか此処に来る前に何があったかを話した
 
 
「そんなっ…!何ですぐ病院に行かないの!?」


「だって…今日は…真由香との…約束の…日…だったから…ハァハァ」
 
 
「私と会うために…?」
 
 
「それに…ハァ…もし…今日…俺が…ここに来なかったら…もう俺に…会うつもり…無かっただろ?」
 
 
確かに真由香は亮と会うのは今日で最後にしようと考えていた


「ハァ…それが分かってたから…どうしても今日、会いたかった…ハァハァ………例え、それで死ぬことになっても…構わないって思った…っ…ハァハァ」
 
 
亮は痛む傷を押さえながら、なんとか立ち上がりベンチに腰掛けた
 
 
真由香は亮の言葉を聞いて呆然としていたが、ハッと我に返り救急車を読んだ


苦しそうに息をしている亮に真由香はただ声を掛ける事しか出来ないでいる
 
 
「亮、大丈夫?しっかりして!もうすぐ救急車来るから」
 
 
「ハァハァ…うん…大…丈夫…だから…ハァハァ…そんな顔…しないで?」


真由香は目に涙を溜めながら、辛そうな表情をしていた
 
 
「真由香は…笑ってる時の…方が…可愛い…」
 
 
そう言って亮は真由香の涙を指先ですくって微笑んだ


「ねぇ…真由香?…一つだけ…お願いが…あるんだ…ハァハァ」
 
 
「なに?」
 
 
「もう一度だけ…っ…俺と…デート…して…?」


「え?」
 
 
亮の突然の申し出に驚き、言葉に詰まる真由香
 
 
「俺…さ、ハァハァ…ちゃんと…直すから…ゴホッ…っ…も…一度…だけ…チャンス…ちょ…だい?」


「俺…真由香と別れて…分かったんだ…ハァハァ…どれだけ…真由香の存在…が…大きくて…大切で…好きだったか…ゴホッ…ハァハァ」
 
 
「亮…」
 
 
亮の言葉に真由香の目から堪えていた涙が零れ落ちた


「今更…気付いても…遅いのに…な…ッ…ハァハァ…でも…出来ることなら…もう一度…やり…直したい…」
 
 
痛みを堪えて必死に伝えようとする亮の姿に心が動かされたのか、真由香は微笑んでこう言った
 
 
「うん…一緒にデートしよ?」


真由香の言葉に亮は驚いたが、すぐ笑顔を見せた 
 
「ほ…んと?ありが…と…コホッ
…何処…行きたい?」
 
 
亮は優しく真由香に問い掛ける


「…遊園地がいいな」
 
 
真由香は涙を拭きながら笑顔で答える
 
 
「遊園地…か…ハァハァ…付き合いたての…頃…よく…行ったっけ」


亮は昔を思い出しているのかどこか遠い目をしていた
 
 
「ジェットコースター乗って…
メリーゴーランド乗って…
コーヒーカップ乗って…ハァハァ…最後に…観覧車乗って…コホッ…
一番高いところで…真由香にキス…したら…真由香…真っ赤になって…可愛かったな…ハァハァ」
 
 
亮は段々と息が荒くなって苦しそうに、でも微笑みながら真由香に話す


「もう一度…行きたいな…」
 
 
呟くように言った亮の手を真由香は泣きながら握る
 
 
「もう一度行こ?遊園地…約束」


そういいながら真由香は亮の小指に自分の小指を絡ませた
 
 
「ゆび…きり…げんまん…ハァハァ…嘘…つい…たら…針…せ…ぼん…飲…ま…す」
 
 
亮は途切れ途切れになりながらも真由香の顔を見て言う


真由香はしっかりと指を絡めて亮の次の言葉を待った
 
 
 
「ゆ…び………きっ――――‥」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
スルッ
 ..


しかしその先が言われる事は無かった
 
 
「…亮?ねぇ亮ってば!」
 
 
必死に呼び掛けるが亮は目を閉じたまま動かない

「ねぇ、亮…指切ったって言ってよ!約束…デートするんじゃないの?亮!!」
 
 
しかし、真由香がどんなに呼び掛けても亮がそれに答えることは無かった―――‥
 
 
 
 
 
            fin


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