PEACE MAKER 鐵(土方×沖田)
不安な気持ち

ある一室で他の隊士に抱えられて総司はいた。

一応の手当てはされているが、腹部には浅くはない傷がある

このところ体調の優れない総司に部屋で寝ているよう命じた土方の目を盗んで、こっそり屯所を抜け出し散歩をしていた最中に数人の不逞浪士に絡まれて斬られたのだ

いくら相手が手練れだったといえど、普段の総司なら難なくかわせたはずだった

しかし、急な咳込みのせいで動きが鈍ったところを狙われた

少しして知らせを聞いた土方が総司が運ばれた部屋に駆け付けた

「総司!!」

勢いよく障子を開け入ってくる土方の姿に総司はバツが悪そうに目を反らす

言いつけを守らずに出歩き、怪我までしたのだ。土方に怒られるだろうことはある程度覚悟していた

「あっ、土方さん・・・えっと、そのー・・・ごめんなさい・・・」

案の定怒りを露に土方は総司に対して声を荒げた

「いい加減にしろ!!寝てろって言ってるのを聞かず勝手に抜け出した挙げ句怪我までして、俺の言うことが聞けないってんなら新撰組にいる必要は無ぇ。出ていけ!」

土方は総司に対してそう怒鳴ると部屋を出て行ってしまった

「土方さん・・・ッ・・・ゴホッ、ゴホッ・・・ゴホ・・・ケホッ・・・ハァハァ」

土方が出て行った後、咳が出て止まらなくなり咳をするたび、傷が痛むのか苦しそうな表情を浮かべる

隊士に手渡された薬を飲み少し落ち着いた総司は、疲れた様子でゆっくり目を閉じた





明け方に目を覚ました総司は土方に言われた言葉を思い出していた

出ていけ、と言った土方の顔が頭から離れない

(土方さん・・・)

悲しげな表情を浮かべたまま総司は部屋を抜け出した





ふらついた足取りで向かったのは近くの堤防だった

堤防に着くと草の上に腰を降ろして、仰向けになり空を見上げる

「土方さん怒ってたな・・・嫌われちゃった、かな・・・」

怪我よりも“出て行け”と言われた事が一番辛かった

病に侵されたこの身体がもう永くないことは自分が一番よく分かっていた



怖いのは死ぬことじゃない、


貴方に必要とされなくなることーー・・



「このまま朝までここにいたら、私も士道不覚悟で″切腹″ですかね・・・」

自嘲気味に笑みを浮かべる

「ッ・・・ゴホッ、ゴホッ・・・ハァハァ・・・ゴホッ・・・ッ・・・ゴホッ」

咳が止まらず、横になりうずくまって咳込んでいると誰かが側に駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「総司!しっかりしろ!総司!!」

「・・・土方・・・さん?何で此処に・・・ケホッ・・・」

「何でじゃねぇ!部屋に行ったらお前が居なくなってたから探しに来たんだ。一体どういうつもりだ!」

「・・・土方さんが、・・・土方さんが出ていけって言ったんじゃないですか」

土方の言葉に、返す総司の表情を見てハッとした

「あれは、勢いで言っただけだ」

「分かってます・・・でも、ずっと不安だったんです。いつか、必要とされなくなるんじゃないかって・・・出ていけって言われるんじゃないかって・・・ゴホッ・・・ケホッ」

「だから、出て行こうと思ったのか?そんな状態で出歩いたらどうなるかぐらい分かってるだろう、死にたいのか!」

「・・・新撰組に・・・近藤さんや土方さんの側に居られないのなら、どうなったって構いません・・・」

土方は強く総司の肩を掴んで抱き寄せた

「馬鹿野郎!お前、本気でそんなこと思っているのか!?」

「・・・ごめんなさい・・・ごめん・・・なさい・・・」

総司の目から涙が溢れた

「俺の方こそ悪かった。お前の気持ちも考えずにキツイ言い方して」

土方の言葉に総司は小さく首を振った

「いえ、私が悪いのですから・・・っ・・・ゴホッ、ゴホッ・・・ハァハァ・・・ゴホッ・・・ゴホッ・・・ッ」

激しく咳き込む沖田の背中を土方の手が優しくさする

「ぐっ、・・・ゴホッ!!・・・ゲホッ・・・コホッ」

口元を押さえた手には真っ赤な血が付いていた

「総司!?お前・・・まさか――!!」

「・・・すみません・・・今まで黙ってて・・・ハァハァ・・・ゴホッ」

「どうして黙ってた!!こんなになるまで・・・」

「皆には・・・知られたく、無かった・・・ハァハァ・・・私も、皆と一緒に・・・ゴホッ、ゴホッ」

ただでさえ蒼白い顔は血の気が失せ一層苦しそうに見える

「ごめんなさい・・・また、土方さんに・・・迷惑かけて」

「そんな事はどうだっていい。とりあえず屯所に戻るぞ、立てるか?」

「はい。・・・ッ・・・ゴホッ・・・ゴホ、ゴホ、ゴホッ!」

立とうとしてまた激しく咳込む総司の背中を土方は落ち着くまでさすり続けた

「大丈夫か?」

「ありがとうございます、もう落ち着きました」

「そうか。じゃあ戻るぞ」

そう言うと土方は総司を抱えあげた

「ちょっ・・・ひ、土方さん!?やだっ、降ろして下さいってば!・・・コホッ」

ささやかな抵抗を試みるも、聞き入れるつもりのない土方はどんどん歩いていく

暫くは黙って大人しくしていた総司だったが、屯所が近くなってくるとやはり人目が気になるのか再び抵抗し出した

「土方さん、もう本当に大丈夫ですから!降ろして下さい///土方さん!」

「大人しくしてろ。傷にさわる」

そう言われてしまえば、迷惑をかけているという自覚がある総司には大人しくする他なかった





屯所に着いた土方は、総司を抱きかかえたまま自分の部屋に向かった

部屋に着くと布団の上に総司を寝かせ、水と薬とタオルを持ってきた

まだ少し苦しそうに息をしている総司の口元の血を拭き取り薬を飲ませる

「まともに寝てないだろ、少し休め」

「はい。ねぇ、土方さん・・・少しだけ、手握っててくれませんか?」

「ったく、しょうがねぇな」

そう言って手を握ると総司は嬉しそうに微笑んで目を閉じる

しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた

土方は眠る総司の顔を眺めながら、改めて“失いたくない”と本気で思った

おそらくもう総司の身体はそう永くは持たない

自分だっていつ死ぬか分からない身だ

それでも、今、この時を

残り少ないこの時間を大切にしよう



「総司…愛している――」



fin.
〈/font〉

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あきゅろす。
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