WILD ADAPTER(久保田×時任)
執行部の相方(荒磯執行部)

それはいつものありふれた光景だった



はずだったーー・・





「大変だ!!生徒が体育館で大塚達に絡まれてる!久保田に時任、すぐ来てくれっ!」

執行部の部室に助けを求めに来た生徒は久保田と時任の姿を見つけると慌ててまくし立てた

「久保ちゃん!」

久保田を呼んだと同時に時任は走り出す





体育館に来てみると、用具入れの側で気の弱そうな男子生徒が大塚とその手下の三人に絡まれているのが見えた

「行くぞ、久保ちゃん!」

「はいよ」

カツアゲをしてる大塚達に近づいてわざとらしく声をかける

「よっ、大塚の旦那!カツアゲとは相変わらずセコいねー。しかもそんな大人数で囲んじゃってさ」

「みんな、そんなにお金に困ってるんだ?可哀想にねぇ。」

大塚達は一斉に声のした方を振り返って

「げっ!?久保田と時任っ!」

「正義の執行部参上!ってね」

「んじゃ、いつもの通りやりますか」

時任が大塚目掛けて一直線に走っていく

横から来る手下達の反撃を軽くかわすと、それを見計らったかのように久保田が蹴りを食らわせる

いつもながら無駄のない息のあったコンビネーションだった

「毎度やられてばっかで引き下がれるかってんだよ!」

拳を繰り出そうとしている時任に大塚も反撃の体制をとる

けれど毎度お馴染みの光景なはずなのに、何故か今日はいつもとどこか雰囲気が違った

その違和感にいち早く気付いた久保田だったが、その原因を探るより早く時任が何かを見つけて走り出した

「お前!いいからとっとと金を出せっ!」

大塚の手下はそう叫ぶと懐からナイフを取り出し、カツアゲをしていた男子生徒に切りかかろうとしていた

「危ねぇっ!!」



グサッーーー!!!





「ぐっ・・・!」



ナイフが振り下ろされた瞬間、時任はその身を盾にして男子生徒を庇っていた

「時任!!」

ナイフはその勢いのまま時任の左腹部に深々と刺さり、時任は思わず痛みに呻く

(・・・やべぇ・・・息、出来ねぇ・・・)

ショック状態を引き起こしたのだろう、呼吸がままならず前のめりに倒れそうになる

寸前のところで久保田に抱えられて倒れるのは避けられたが、襲ってきた激痛に顔を歪ませた

「っ・・・痛ぇ・・・」

「時任!しっかりしろっ」

「うっ・・・久保、ちゃ・・・ハッ、ハッ・・・っ・・・」

「喋らなくていい。落ち着いて、ゆっくり呼吸して」

背中を撫でながら時任の呼吸を落ち着かせる

段々と落ち着いてきた時任は自分を支える久保田を見上げて小さく笑った

「さんきゅ・・・久保ちゃん・・・」

そして男子生徒に顔を向けると怪我が無いかを確認する

「大丈夫か?」

「あっ、はっ、はい。僕は大丈夫ですが、時任さんが・・・」

「気にするなって・・・こんくらい、・・・平気、だから・・・。なんたって俺様は正義の味方だからな・・・へへっ」

強がって笑う時任だったが、実際は思ったよりも重症だった

鋭いナイフが根本近くまで刺さり、制服を血で真っ赤に染めている

「・・・っ・・・はぁ、はぁ・・・」

大塚達もまさかこんなことになるなどとは思ってもおらず、皆その場から動けずにいた

「お前ら・・・こんなもん振り回して、危ねぇだろうが・・・」

怒りを含んだ時任の声にハッと我に返った大塚達は、これ以上この場にいるのはまずいとばかりに走り去っていった

「・・・」

そして、大塚達のその姿を見送る久保田の瞳には深い闇が満ちていた

「っ・・・久保ちゃん・・・絶対、一人で勝手に・・・仕返しなんか、するんじゃねーぞ?・・・したら、・・・絶交、だかんな?」

時任が真剣な眼差しで久保田の目を見つめるとその瞳の奥がわずかに揺らいだ

おそらく今の久保田は時任をこんな目に遭わせた大塚達を許さないだろう

放っておいたら何をしでかすか分からない狂気を内に秘めていた

病院送りか、下手をしたら殺してしまう可能性だってある

そうすれば久保田と二人で執行部を続けることも出来なくなってしまう

時任にはそれが何より心配だった

「約束!」

時任は久保田の小指に自分の小指を小指を絡めぎゅっと握りしめた

「・・・・・・分かった」

その返事に安心した様に笑みを浮かべた時任だったが、途端に腹部に激痛が走り思わず久保田の腕を握る手に力を込める

「うっ・・・!!!」

身体を丸め、刺された場所を押さえながら身体を震わせる

「時任!」

「・・・っ・・・大、丈夫・・・だから・・・」

口ではそう言うものの、大丈夫などではないのは一目瞭然だ

「もうすぐ救急車が来るから」

久保田が声を掛けると、痛みに顔を歪ませながらも笑みを浮かべて頷いた

「大丈夫、だから・・・んな顔、すんなって・・・」

そんなにひどい顔をしているのだろうか

久保田は傷口を押さえる時任の手の上に自分の手をそっと重ねた

「久保、ちゃん・・・はぁはぁ・・・っ」

「時任、もう少しの我慢だから」

コクリと頷く時任の額には脂汗が滲んでおり、呼吸もだいぶ荒くなっていた



救急車が来るまでの時間がまるで永遠のように感じられた





救急車が到着し、担架で運ばれていく時任に付き添い、久保田も救急車に乗り込む

「時任」

「・・・久保、ちゃん・・・」

すでに意識がぼんやりしているのか時任の瞳は虚ろだ

それでも久保田がくしゃりと頭を撫でると猫のように目を細めて笑った

「早く元気になりなね?ちゃんとお前が戻ってくるの待ってるから」

「おう・・・久保ちゃんの隣は・・・俺の場所、だかんな・・・」





その後、病院に入院し暇をもて余した時任の世話を甲斐甲斐しく、そして楽しそうにする久保田の姿が桂木によって目撃されたのはまた別のお話





fin.
〈/font〉

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