WILD ADAPTER(久保田×時任)
言霊編 後日談

久保ちゃんが警察から解放され、二人して住み慣れたマンションに戻ると部屋の中は散々だった

「げっ!?なんだよこれ!部屋ん中めちゃくちゃじゃんか」

「あららー、本当だ。まぁ、家宅捜索したって言ってたからねぇ」

「にしても、こんなんでどうやって寝ろっつーんだよ」

部屋は何処もかしこも色んなものがあちこちに広げてあり、足の踏み場も無い状態だった

「あちらさんは広げるだけ広げて片付けはしないからねぇ。まぁ、とりあえず今日のところはテーブルとベッドの上だけどかして片付けは明日やるってことで」

「・・・だな」

帰りにスーパーで買ってきた具材を手早く切り分け鍋の支度をする

「久保ちゃん、これもう封切って入れていい?」

鍋のつゆのもとを手に持った時任が近付いてくるのを見て思わず久保田の口元に笑みが浮かぶ

「なに笑ってんだよ」

「いや、帰ってきたんだなと思ってさ」

「さては俺様がいなくて寂しかったんだろー?」

からかうつもりで覗き込めば、思いのほか優しい眼差しで見つめられドキリとする

「うん。寂しかった・・・だから慰めて」

正面からぎゅっと抱き締められた拍子に驚いて持っていた鍋つゆを落としたが、すぐに拾う気にはなれなかった

「ったく、しょーがねぇな。少しだけだぞ?」

伝わってくる温もりを感じ、時任もここ数日離れて暮らしていた事実を改めて実感した

「・・・俺も」

「うん?」

「俺も寒かったみたいだ。今気付いた」

「うん。ただいま、時任」

「お帰り、久保ちゃん」

二人して見つめ合いながらクスリと笑った





「なあ、アンナとどんな関係なんだ?」

二人してベッドに横になり眠りにつく間際、ポツリと時任が呟いた

「何?気になるの?」

「別に言いたくなけりゃいーけどさ」

「アンナは何て?」

その問いに言おうかどうか時任は迷ったが、アンナに聞いた通りに口に出した

「久保ちゃんの“初めての女”だって」

「なるほど。で、お前はそれ聞いて妬いてたんだ?」

「なっ、ばっ!ばか!何でそーなんだよ!?」

真っ赤になって慌てていれば“その通り”だと言ってるようなものなのだが、時任本人にその自覚は無い

「あれ、違うの?てっきりやきもち妬いてくれたんだと思ったんだけど。この前、お前様子変だったし?」

「誰がやきもちなんか妬くかよ!」

「そう?残念。・・・でも気になるんだ?」

そう言って久保田が意地悪な顔で覗き込めば、時任はふいとそっぽを向いてしまった

「からかってごめん、時任。機嫌直して?」

聞こえた声がどこかしょんぼりしていて、時任は思わず笑いそうになるのをこらえた

「ああ、コイツ本当に犬みてー」とか思いながら、振り返って久保田の頭をわしゃわしゃと撫でる

「別に機嫌悪くねぇよ。ただアンナのことでちょっとモヤモヤしてたのも本当だけど」

「んー。アンナとは俺が中学の頃に出会ったんだけど、男に暴力振るわれて金取られて、慰めてほしいときにたまたま俺が側にいたって感じ?確かに身体の関係も何度かあったし、初めての女ってのもあながち間違いじゃないかな」

淡々と話す久保田の横顔からはなんの感情も読み取れない

「でもそのあとすぐアンナの元カレとちょっと警察沙汰になって、それからはアンナとも連絡取ったりして無かったんだけど」

「そうなのか?」

「うん。だからお前からアンナの名前が出たときはちょっとビックリした。それで、どう?少しはモヤモヤ無くなった?」

「少しは。でも、なんか俺の知らない久保ちゃんがいっぱいあるんだな、って。まぁ、久保ちゃんの口から聞けてちょっとスッキリしたけどな」

「それならよかった。それじゃ明日に備えて今日は寝ようか」

「だな!」

隣にいる時任の体温を感じながら、久々にぐっすりと眠れそうな気がして、久保田は大きなあくびをひとつこぼして眠りについた





翌日、二人して朝から家の中の片付けをしていると突然家の電話が鳴り響く

「時任、俺今ちょっと手離せないから電話出てくれる?」

「ん、分かった」

時任が電話に出ると電話の相手はアンナだった

「誠、釈放されたんだ?良かったじゃん」

「おう。お前にも世話んなったし、サンキューな。けど帰ったら家ん中ぐちゃぐちゃでさ、今久保ちゃんと片付けしてたとこ」

そう答えると電話の向こうからあはは、と笑い声が聞こえる

「ねぇ、片付け落ち着いたら三人でお茶でもどうかな?」

急な誘いに一瞬迷った時任だったが、とりあえず久保田に聞いてみることにした

「久保ちゃん。電話アンナからだったんだけど、片付け終わったら茶でもどうかって。どうする?」

「んー?お前はどうしたい?」

昨日の反応からしておそらく自分とアンナが会うのはあまりいい気分では無いだろうと思い、久保田は時任の意見を聞いた

「まぁ、今回の事でアンナにも世話んなったし、茶ぐらい良いんじゃないか?」

「ん、じゃ明日にでも」

「分かった。アンナにそう伝えとく」

幸いアンナの方も都合が良いらしく、明日の11時に駅前のファミレスで会うことになった





「よっ、久しぶり!」

「どーも」

二人がファミレスに着くとすでにアンナは先に来ていた

「久しぶり、誠。なんか雰囲気変わったね」

「そうかな?まぁ、あれからだいぶ経つからねぇ。アンナも元気そうで何より」

のほほんとした口調で答える久保田はアンナが知っている昔の久保田とはどこか印象が違っていた

「私も何だかんだで元気にやってるわ。時任も、この前はありがとう。お陰でリカに犯人捕まえたよって報告が出来た」

「良かったじゃん。こっちも久保ちゃん取り返せたし、助かった」

それから、とりとめの無い話をしながら三人で食事をした

「やっぱり誠、変わったね。優しく笑うようになった」

「そう?」

「正直言うとね、時任といる誠を見てみたかったんだ」

“君じゃなきゃダメだったんだね”

時任はふいにアンナに言われたことを思い出した

「久保ちゃんがさ、俺と会ったことでちょっとでも良い方向に変わったんだったら、俺らが出会った意味はちゃんとあったんだよな?」

「当たり前っしょ?」

時任を見つめる久保田の瞳は優しい色を灯していた

「二人とも、これからもずっと一緒にいなきゃダメよ?」

『「当然!」』

アンナの言葉に二人同時に返すと顔を見合わせて笑った





fin.
〈/font〉

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あきゅろす。
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