WILD ADAPTER(久保田×時任)
葛西の事件、その後の二人(原作沿い)

ーーー私から君へ

愛を込めて



そう真田の声が電話から聞こえたと同時に開いたエレベーターから目に飛び込んできたのは、血まみれで壁にもたれ掛かって死んでいる葛西の姿だった

「!!!」

絶句する二人の耳に、繋がったままの携帯電話から真田の笑い声が聞こえてくる


ーー気に入ってもらえたかね?


目の前のことに頭が混乱して立ち尽くす時任とは裏腹に、久保田はすぐさま表に出て黒塗りの車を見つけると拳銃を発砲した

しかし車は勢いよく走り去って行き、その行く手を阻むことは出来なかった





車が完全に見えなくなると久保田は舌打ちをし、時任の元へと戻った

「時任」

まだその場に立ちすくんでいる時任に声をかける

「久保、ちゃん・・・おっちゃんが・・・おっちゃんが・・・っ・・・なんで!・・・だって、こんな・・・」

パニックを起こしかけている時任を抱きしめると、久保田は優しく声をかける

「時任、落ち着いて」

「っ・・・久保ちゃん・・・」

ぎゅっとしがみつくように抱き返してくる時任の背中をポンポンとあやすように叩きながら、久保田は努めて冷静な声で時任に語りかける

「時任、こうなった以上ここにはもういられない。ここにもじきに警察が来る。そうなったら俺達は間違いなく捕まる。実際に俺は発砲もしてるし、捕まったら例え無実だろうと間違いなく犯人にされるだろうね」

「久保ちゃん・・・?」

見上げてくる時任を見つめ返し久保田は続けた

「今から最低限の荷物だけ持って、しばらく二人で身を隠す。いいね?」

「ちょっ、待ってよ久保ちゃん!おっちゃんをこのままにしとくってのかよ!?」

時任の言いたいことも分かる。けれど時間が無いのだ。葛西の無念を晴らすためにも自分達が捕まるわけにはいかない

「うん。葛西さんには悪いけど、今俺たちが捕まるわけにはいかないでしょ?」

そう言った久保田の心中を察した時任は素直に頷いた

「・・・分かった」





部屋に戻ってきた時任はつい数時間前にこの部屋を出た時のことを思い出す



ーー「時任、今日何食べたい?」
ーー「んー、カレーかオムライス以外?」
ーー「了解。じゃ買い物行って何食べたいか決めようか」
ーー「おう!早く行こーぜ、久保ちゃん」



そんな会話をして家を出た。それがまさかこんなことになるなんて思いもしなかった

「何で・・・」

時任の言葉に久保田が振り返る

「時任、辛いけど今は一刻も早くこの場から去らなきゃいけない。必要な物だけをまとめてすぐに出るよ」

「分かってる。・・・ちゃんと、分かってるから」

早くしなければいけないと頭では分かっている。だが、突然のことに気持ちが着いていかないのだ

それに、いざ持ち出すとなると何を選らべばいいのか分からない

(この部屋は記憶の無い俺にとって、久保ちゃんと一緒に過ごしたかけがえのない場所だから・・・)

時任にとっては、置いてあるものすべてが “ 大切なもの ” なのだ


一緒にゲーセンで取ったキーホルダー・・・

お揃いで買ったマグカップ・・・

乗り気じゃない久保ちゃんを説得し二人で撮った写真・・・


(これぐらいなら持ってってもいいよな・・・?)

時任は二人で撮った写真を写真立てから抜き取って財布にしまった

「時任、準備できた?」

「ああ。久保ちゃん、行こうか」



もう戻れない、写真の頃の二人には

けど、二人でいられるなら

それが例え、何処だとしても

どんな暗闇の中でも

乗り越えられるはずだからーーー





とりあえず、久保田と時任は東湖畔の鵠の元を訪ね、あらかた事情を説明した

「なるほど、事情は分かりました。それでこれからお二人はどうなさるおつもりで?」

「とりあえずあのアパートにはもう戻れないから、住むところを探すのが先かな」

「それでしたら、私が持っているアパートの一室を使われてはいかがでしょう?」

突然の鵠の提案に久保田も時任も驚く

「そりゃ、今の俺達にとってはありがたい話だけど・・・」

やはり久保田も迷っているようだ

これ以上自分たちと関わると、鵠にまで迷惑が掛かるんじゃないかと危惧しているのだ

「貴方たちさえよろしければ、私は構いませんよ。それに、部屋を借りるとなれば手続きとか色々と面倒でしょう?」

鵠の言葉に、改めて自分たちの立場を認識させられる

「・・・そうですね、ではお言葉に甘えさせてもらいます」

鵠の好意に感謝しながら、二人はアパートへと向かった





アパートに着いて一息つくと久保田は時任に声をかけた

「時任、近くのコンビニに行ってくるからお前は少し休んでなさい」

最低限の物しか持って出なかったため、必要なものを買いに行こうと思った久保田だったが、時任はかなり参っているようで見るからに疲れが出ていた

だが、置いていかれるのは嫌だとばかりに時任は久保田の服の裾を引っ張り首を降った

「いい。俺も一緒に行く」

「・・・ん、じゃ一緒に行こうか」

二人でコンビニに行く間も時任は無言だった

(かなり精神的負担が大きいみたいね・・・)

時任を心配しながらも、かける言葉が見つからず久保田もまた無言でコンビニまでの道のりを歩いた





夜になり眠ろうと布団には入ったのだが、二人ともなかなか眠れないまま時間だけが過ぎていった

目を閉じると葛西の姿を思い出してしまい一向に眠れそうにない

「久保ちゃん、・・・なんか、眠れない」

「うん。でも身体だけは休めといた方がいいから」

もともと不眠症の久保田も今夜は眠れそうになかった

「時任、もう少しこっちにおいで。寒いっしょ?」

「うん。寒い・・・」

すり寄ってきた時任を、猫みたいだな、と思いながら髪を梳いてやると嬉しそうに目を細めた

しばらくそうしていると、安心したのかいつの間にか隣からは安らかな寝息が聞こえてきて、久保田は小さく笑みを雫す

そのまま、起こさないようにそっと布団を抜け出しリビングに向かった





静まり返った部屋の中、月明かりが差し込む窓際のテーブルの上にカップ酒と葛西がいつも吸っていたタバコを並べて置き、自分もその向かいの椅子に腰掛ける

葛西の愛用していたタバコに火を着けると、いつも吸っているタバコとは違う味がした

その香りに、豪快に笑いながら自分を呼ぶ葛西の姿が目に浮かんだ

「葛西さん、ごめんね・・・」

目を閉じると葛西の死に様がありありと浮かんでくる

おそらく最初の一発目で即死だったはずだ。それでも尚、何度も撃ち抜くのは自分への当て付け

“ お前のせいでこんな無惨な殺され方をしたんだ ” と俺に知らしめるため

あのとき自分は、時任さえ生きていてくれれば他はどうでも良かった

時任をさらい、痛め付けた奴等など殺しても当然とばかりに実行した結果がこれだ

事務所を壊滅させたのだ。ただでは済まないとは思っていたが、まさか葛西に矛先が向くとは思ってもみなかった。久保田は己の甘さを呪った



ーー巻き込めないから



時任が連れ去られた場所の当てがあるのかを聞かれた際、そう告げたのは鵠の店で顔を見たとき。それが最後だった

「一番最悪な形で巻き込んじゃったね」

ポツリと呟いた声が虚しく部屋に響いた





色々なことがあり精神的にも肉体的にも疲れて果てていた時任は、久保田の髪を梳く優しい手つきに心地好さを感じ、いつのまにか眠ってしまっていた

ふと目を覚ますと隣にあるはずの姿が見えない

闇に一人取り残された様で不安になった時任は寝室を抜け出し久保田の姿を探す

リビングから気配がしたので物音を立てないよう扉の前まで来ると、中から声が聞こえた

「葛西さん、ごめんね・・・」

今まで聞いたことの無い痛そうな声に胸が締め付けられる思いがした

「一番最悪な形で巻き込んじゃったね」

きっと自分を責めているのだろう

久保田にとっては数少ない理解者で唯一の身内だったのだ

記憶がなくてどこの誰かも分からない自分のことも温かく受け入れてくれた

口には出さなくてもそんな葛西が久保田も時任も好きだったのだ

「久保ちゃん・・・」

時任が小さく声をかける

「時任、起きてたんだ」

「うん。目が覚めたら久保ちゃん居なくなってたから・・・」

「不安になった?」

少し微笑んで問いかけると、時任は小さく頷き、そして俯いた

「大丈夫、俺は何処にも行かないから」

久保田が優しくそう言っても、時任の表情は暗いままだ

「時任?」

「・・・おっちゃん、死んじゃった・・・っ・・・ごめん、俺のせいで・・・」

急に涙を零して謝る時任に久保田は目を瞠った

「どうしてお前のせいなのよ?葛西さんが亡くなったのは、俺が年少組を壊滅させたことへの報復なんだからお前が気に病むことなんて少しもないでしょ」

久保田の言葉に時任は首を振る

「だって・・・そもそも俺が捕まらなきゃ、久保ちゃんがそんなことして怨み買うことも無かったじゃん」

「向こうはWAについての情報を求めてるみたいだから、今回に限らずいずれお前に目を付けてたと思うよ。俺は真田という人物がどういう人間か知っていて、そうなるかもしれない危険性を十分に配慮しきれなかった」

「でも、それは久保ちゃんのせいじゃないだろ!」

自分のせいだと言わんかりの台詞に時任が思わず声を荒げると、久保田は真っ直ぐ時任を見て微笑んだ

「そうだね、じゃあお前のせいでもないよね?」

「・・・・・・うん」

時任の返事を聞いた久保田はにっこりと笑う

そんな久保田を時任は後ろからぎゅっと抱きしめ目を閉じた

「時任・・・?」

「少しだけこのままでいてもいいか?」

「うん。・・・温かいね、」

伝わってくる時任の心臓の音が、温もりが、冷たくなった久保田の心も溶かしていった

しばらくそうして互いの体温と鼓動を感じていると、ふいに時任が口を開いた

「久保ちゃん、俺も一緒にいい?」

「うん、隣においで」

その夜、葛西の弔いを二人だけでひっそりとやった

特別何かをしたわけでもない。ただ酒を飲みながら、葛西との思い出を一晩中語り合った

それが二人 なりの “らしい ” 弔い方だった

「おっちゃんの為にも俺達は前に進まなきゃだな」

「そういうこと」

顔を見合わせた二人は、どちらからともなく笑った





fin.


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