銀魂(土方×沖田)
最後の願い
地愚蔵による屯所爆破未遂事件は結局のところ沖田の手の込んだイタズラだった

それにまんまと引っ掛かった土方だったが、それから一週間、土方は沖田への怒りが収まらないのか沖田への態度をあからさまに変えていた

会話も必要最低限の連絡しかせず、名前も沖田と呼ぶようになった

沖田がイタズラを仕掛けても、鬱陶しそうにやめろ、というだけで相手にもしない

「ちぇっ、なんでぃ土方のヤロー」

口では憎まれ口を叩いている沖田だったが、内心その事に寂しさを覚えているのも事実だった



その日の夜もいつもと同じように巡察という名の散歩をしながら、沖田はここ数日の土方の様子を思い出していた

「そりゃ多少やりすぎだったかも知れねぇけど、土方さんも大人気ないですよねィ」

モヤモヤとした気分のまま道を歩いていると、すれ違い様に男に声を掛けられた

「沖田総悟だな」

沖田は向けられた殺気にハッとして咄嗟に振り返ったが、その一瞬の間が命取りになった

振り返った瞬間、腹にドンという衝撃と焼けるような痛みが走った

思わず息が詰まる

視線を向けると、自らの腹部に刀が深く突き刺さっていた

その刀は背中まで貫通し、刀身は血で真っ赤に染まっていた

「っ・・・テメェ」

倒れそうになるのを堪えながら睨み付ければ、相手は何事も無かったかの様に沖田の腹に突き刺した刀を抜いた

「ーーーっ!!」

肉が引き裂かれる痛みに思わず声を上げそうになる

襲ってくる痛みに耐えながら沖田はなんとか刀を構えたが、正直立っているのもやっとの状態だった

「幕府に″敗北″を」

男はそう言い残すと、ゆっくりとその場を立ち去った

「待て・・・!!」

追いかけようとした沖田だったが、腹部に激痛が走り、思わずその場にかがみ込んだ

「ぐっ!!・・・はぁはぁ・・・」

近くの壁に背を預けてずるずると座り込む

傷口を押さえる手は真っ赤に染まり、指の隙間からはなおも鮮血がドクドクと溢れ出ている

(・・・あー、俺ァこのままここで死ぬのかねィ)

死を悟ったとき、脳裏に土方の顔が浮かんだ

「土方、さん・・・」

ぼんやりと空を見上げるときれいな満月だった

(結局、謝れなかったでさァ・・・)

土方の顔を思い出して深く息を吐く

傷口を押さえている手から徐々に力が抜けていくのと同時に、だんだんと意識が薄れていく



『おい!しっかりしろ!!沖田くん!』



沈みゆく意識を引き上げたのは、聞き覚えのある声だったーーー




依頼の帰りにたまたまそこを通りかかった銀時達よろず屋3人は、血塗れで座り込んでいる沖田の姿を見つけ言葉を失った

「おい、しっかりしろ!!沖田くん!」

駆け寄った銀時が沖田の肩を揺すり名前を呼ぶ

「沖田さん!!?」

「どうしたアルか!!」

新八と神楽も沖田の姿に驚きを隠せない

「旦、那・・・?」

小さくだったが沖田が反応を見せたことに銀時は安堵する

「待ってろ!すぐ病院に・・・」

立ち上がりかけた銀時の袖を掴み、沖田は首を振った

「・・・頼みが、あるんでさァ・・・」

沖田の状態を見た銀時は恐らくそう長くはもたないであろうことを悟った

苦い表情を一瞬浮かべたが、すぐに労るように優しく問う

「何だ?」

「俺を、屯所まで連れてって下せェ・・・」

「無茶だ、そんな身体でーーー」

だが沖田は銀時の言葉を遮った

「お願いでさァ・・・土方さんに、どうしても謝りたいんでェ」

沖田は銀時の腕をぎゅっと握った

「このまま・・・ちゃんと、謝れないまま別れるのは・・・どうしても嫌なんでさァ」

銀時には沖田の最後の願いを拒むことは出来なかった

「分かった。屯所まで連れてってやる」

「ありがとうございやす・・・」

沖田は嬉しそうに微笑んだ





「とりあえず、まずは止血だ」

銀時は新八に買いに行かせたガーゼと包帯を受けとると、沖田の傷の手当てをし始めた

「・・・っ・・・」

「痛むだろうが、少し我慢しろ」

「っ・・・大丈夫、でさァ・・・ハァハァ」

痛みに顔を歪めながらもなんとか笑みを浮かべる沖田を神楽は複雑な表情で見つめる

「チャイナ・・・」

それに気付いた沖田が神楽の名前を呼んだ

「・・・決着、つけらんなくて、悪ィな・・・けど、テメェとやり合うのも・・・結構、楽しかったぜィ・・・」

「私も、楽しかったネ」

沖田の言葉に思わず涙腺が緩みそうになった神楽は、それだけ言うのが精一杯だった

手当てが終わり、呼んであったタクシーの後ろの座席へ沖田を座らせる

「世話んなったな・・・じゃぁな」

神楽と新八に向けて沖田が礼を言う

「沖田さん・・・」

辛そうな表情の新八と、唇を噛みしめ何も言わずにその姿を見送る神楽

「お前らは先に帰ってろ」

銀時がタクシーに乗り込むと、バタンと後部座席のドアが閉められた





「旦那、・・・土方さんのこと、よろしくお願いしまさァ・・・」

タクシーの中で沖田がポツリと呟いた

「何で俺が・・・」

「あれで、案外打たれ弱いところもあるんですぜィ・・・きっと、近藤さんや皆の前では・・・心配かけないようにって、・・・平気なフリするでしょうから」

仲間思いで、情に脆く、責任感が強い

そんな土方は沖田が死んだら自分を責めるだろう

だからこそ、そんな土方のことが心配だった

本人たちは決して認めようとしないが、土方と銀時は似ている

だからこそ、沖田は土方の心の傷も銀時が癒してくれるのではないかと思っていた

「それと、・・・もう一つだけお願いがあるんでさァ」

「何だ?」

「 」

「あ?何だってそんなこと・・・」

「これが、俺からの最後のお願いでさァ・・・」

沖田はそう言うと、まるで悪戯を思いついた時のような表情でクスリと笑った

「まぁ、沖田くんからの頼みだから引き受けてやるよ」

「ありがとうごぜぇやす・・・旦那には色々助けてもらって感謝してるんですぜィ・・・」

姉のミツバの時も、新撰組の危機の時も、今もーー・・

「そんな昔のこと、いちいち覚えてねぇよ。ほら、着いたぞ」

照れ隠しが下手なところもやっぱり似ている

「じゃあな。悔いが残らねぇようにちゃんと伝えるんだぞ?」

沖田の頭に手をポンと乗せ、銀時はタクシーで来た道を歩いて帰っていった





沖田は土方の部屋に行く前に自分の部屋に寄った

そして、汚れた隊服から新品の隊服へと着替えながら、以前土方と交わした会話を思い出していた



ーー「おい、総悟!新品の隊服ぐらい用意しておけ。大事なときに米粒付いてたらシャレになんねぇだろーが」



「違ぇねぇや・・・たまには土方さんの言うこと聞いとくもんだねィ」

新しい隊服は沖田に少しだけ力をくれたような気がした

部屋にあった近藤と土方と三人で撮った写真を眺め、小さく微笑むと土方の部屋へと向かった





「土方さん、入りやすぜィ・・・」

部屋の前まで来た沖田は、中にいるであろう土方に声を掛ける

だが、土方からの返事を待たずに沖田は障子を開けて中へと入った

「勝手に入ってくるな。仕事中だ」

土方は背を向けたまま沖田のことを見ようともしない

そのことに少しだけ胸の奥がツキンと痛んだ

畳の上に正座をし、息を吸い込むと煙草の匂いが鼻をついた

「あんまり煙草ばっか吸ってると、そのうちぽっくり死んじまいやすぜィ」

「余計なお世話だ。それに煙草の数が増えてる原因はてめぇにもあんだろ」

冗談めかして言えば、途端にトゲのある言い方で返してくる

(仲直り、出来やすかねィ・・・)

心残りだった土方とのわだかまり

死ぬ前に、どうしても ″ 以前のような関係 ″ に戻りたかった

けれど、残された時間はもうあとほんの僅かしかなかった

「土方さん、この前はすいやせんでした・・・さすがにちょっとやり過ぎたかなって・・・」

「ちょっとじゃねぇだろ」

だが、土方の怒りはそう簡単には収まるものではないようで、とりつく島もない

「・・・でも、これだけは信じてくだせェ」



許してくれなくてもいい

でも、どうかこの想いだけは

ちゃんと伝えたいーーー・・



「・・・あのとき言ったことは本当でさァ」

沖田の言葉に対して、土方はまるで聞こえていないかのように黙々と紙に筆を走らせている

それでもちゃんと声は届いているはずだ

「・・・別に副長の座だって本気で欲しかった訳じゃねェ・・・ただ、アンタに構って欲しかったんでさァ」



目が霞む

土方さんの背中が徐々にぼやけていく

それでも、どうしても最期にちゃんと言葉で伝えておきたくて、



「俺ァ・・・近藤さんが局長で、・・・土方さんが副長の・・・この新選組が、好きなんでさァーーー・・」

言い終えたと同時に辛うじて身体を支えてた力が入らなくなり、そのままドサリと倒れこんだ

「総悟!!?」

背中を向けていた土方が総悟の異変に気付き慌てて駆け寄る

「おい、どうし・・・!」

途中まで言いかけた土方はハッとした

さんざん人をからかってきた沖田のことだ、これもまたいつもの悪ふざけではないかと

「テメェ、また性懲りもなく・・・」

だが沖田の様子を見た土方は、これは演技や悪戯などではないとすぐに悟った

「おい!総悟!」

傷口から染み出した血が隊服を赤く染めていた

「何だ、これ・・・っ」

土方は思わず沖田の隊服を捲り上げ、その傷を見て愕然とする

「っ・・・土方、さん・・・」

目を覚ました沖田は動揺した土方の様子に、少しだけ笑みをこぼした

「すいやせん・・・油断、しちまいました・・・」

「何があった!誰にやられた!?」

「・・・攘夷、志士の・・・連中の・・・っ」

身体を起こそうとする沖田の肩に手を置きやんわりと押し戻す

「じっとしてろ。今、医者を・・・」

そう言って立ち上がりかけた土方の隊服の裾を沖田が掴んで引き留める

「ここに・・・居て、下せェ・・・」

絞り出すような声に土方は胸が締め付けられる思いがした

「総悟・・・・・・分かった。」

呼吸も浅く、玉のような汗を浮かべている沖田の傍らに座り、額の髪をかきあげてやると沖田がふっと笑った

「・・・やっと、まともに・・・顔見れやしたね・・・名前も・・・」

「気にしてたのか?」

土方の問いかけに沖田は小さく頷いた

「・・・仲直り・・・出来やした、かねぇ・・・?」

沖田がわずかに手を持ち上げると、土方がその手をしっかり握った

「・・・良かっ・・・た・・・」

その温かさに安らぎを覚える

「最期に見るのが・・・土方さんの顔ってのも・・・案外、悪くねぇや・・・」

「何、馬鹿なこと言ってやがる」

土方にだって分かっているのだ

だがそう簡単に認められるはずもない

戦いに身を置く以上、自分も仲間もいつ死んでもおかしくない

それは分かっていたことだし、覚悟もしていたつもりだった・・・

けれど頭のどこかで、いつもの日常がこれからもずっと続いていくのだとも思っていた

目の前で消えかかっている大切な者の命を、何も出来ずに見ていることしか出来ない自分が腹立たしくてやるせなかった





徐々に身体の感覚が無くなっていく

「・・・土方、・・・さん・・・ありがとう・・・ございやした・・・」

(これで本当に、゛最期 “ ですねィ・・・)


ありがとう、近藤さん


ありがとう、土方さん


遠い日野の地で二人にどこまでも着いて行くと決めたあの日のことを思い出す


(俺は、幸せでしたぜィ・・・)


静かに息を引き取った沖田の顔は幸せそうな笑みを浮かべていた





総悟の葬儀が終わり、土方は近藤の部屋にいた

「近藤さん・・・」

ボロボロと涙をこぼす近藤にどう言葉をかけて良いか分からなかった

「歳っ・・・総悟が・・・総悟がぁぁぁ!!」

「・・・っ」

土方も涙を堪えきれなかった

試衛館にいた頃からずっと一緒だったのだ

近藤にとっても土方にとっても沖田は唯一無二の家族だった

「近藤さん、・・・ごめん・・・」

「っ・・・お前のせいじゃないさ」

近藤はそう言うが、土方はなおも自分を責めていた

沖田は重症を負いながらも屯所へと戻ってきた

病院ではなく、屯所に

それが何故か分からない土方では無かった

(すまない、総悟・・・)





3日が経っても屯所の中は暗いままだった

皆、沖田が死んだことを受け止めきれずにいるのだ

だが、だからといって治安維持を疎かにするわけにはいかない

土方は普段通りに仕事を黙々とこなしていた

「さすが、鬼の副長・・・沖田さんが死んだってのにもう普段通りだ」

隊員たちの囁きが遠くから聞こえ、土方は苛立ちも露に煙草に手を伸ばす

灰皿の周りにはすでに何本ものタバコの吸い殻が散らばっていた

「あんまり吸いすぎは身体によくないぞ」

部屋に入ってきた近藤が襖を全開にする

「分かってるよ」

日の光に照らされた近藤の顔はやつれていた

「歳、気分転換に散歩でもしてきたらどうだ?」

「・・・ああ、そうだな」

そんな気分ではなかったが、自分を心配して言ってくれているのが分かっているので素直に外に出た





「よぉ。ちょっと付き合えよ」

屯所を出たところでもっとも会いたくないやつーー坂田銀時ーーと出会った

「ああ?今忙しいんだ、てめぇに付き合ってる暇はねぇ」

そう返すと銀時は「いいから付き合え」と強引に腕を掴んで歩き出す

「おっ、おい!テメェいい加減にしろっ・・・」

少し進んだ先で土方は乱暴に銀時の手を振り払う

「沖田君と話せたか?」

「!!?」

突然の銀時の質問に土方は目を瞠る

「テメェが何で・・・!」

「あの日、怪我をした彼を屯所まで送り届けたのは俺だからな」

その言葉を耳にした途端、土方は頭に血が上り銀時に掴みかかっていた

「どうしてすぐ病院に連れて行かなかった!?テメェがすぐ病院に連れていってたらもしかしたら・・・!」

「俺が見つけたときにはすでに手遅れだった。それは沖田くんが一番分かってたはずだ・・・だから沖田くんは俺に屯所まで連れてってくれと頼んだんだ。お前と仲直りするために」

「・・・」

土方はやりきれない思いで拳をきつく握りしめる

「沖田くんに渡してくれって頼まれてた物がある」

ビニール袋に入った物を土方に渡す

「これ・・・」

中に入っていたものはチューパットのグレープ味

「あのヤロ・・・」

ニヤリと笑う沖田の顔を思い浮かべ土方は空を仰いだ

その頬に一筋の涙の跡があったことに、銀時は気付かない振りをしてその場を立ち去ろうとした

「・・・おい」

だが背を向けた銀時を土方が呼び止めた

「テメェも飲め。俺一人じゃ飲みきれねぇだろうが・・・」

チューパットを差し出す土方の顔は少しだけ晴れやかだった

チューパットの意味するところは沖田と土方にしか分からない

だが、銀時には沖田の最後の悪戯が成功したということだけはなんとなく分かった

「・・・甘ぇな」

空を見上げポツリと呟いた土方は、沖田の顔を思い浮かべてふっと小さく笑みをこぼした





fin.


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