鋼の錬金術師(ロイ×エド)
精神安定剤

「この間の事件の時と今回の文献、またこれで君に貸しが出来たね」


「ちっ、あんま大佐に借り作りたくないんだけど…まぁでも仕方ないか。で、何が望みなんだよ?」


「3日間、私の家で過ごすこと」


「…は?」


ロイの台詞にエドワードは思わず固まる


「その顔はなんだね、滅多に会えない恋人と少しでも長く一緒に居たいと思うのは当たり前だろう?」


「いや、ちょ待てって、第一アルが…」


「アルフォンスは了承済みだ。その間ハボックの家で世話になると言っていたぞ」


「アルのやつ、俺に聞かずに勝手に決めやがって」


「君は私と居るのが嫌なのか?君がそこまで嫌なら無理にとは言わないが…」


そう呟いたロイの姿はまるで捨てられた子犬の様で、エドワードは少し可哀相に思えた


「分かったよ」


「え…?」


「3日間一緒に居てやるって言ってんだよ」


「本当か!?」


途端に嬉しそうにするロイ


(本当にコイツ犬みてー…)


エドワードにはロイがパタパタと尻尾を振る犬に見えて仕方が無かった







それからのロイは定時で帰るため、猛スピードで机に溜まっていた書類を片付け始めた


その姿に「だったら普段からサボらず仕事しろよ!」と皆が突っ込んだという


机の上の書類は見る見る間に片付き、ロイは無事に副官の許しを得てエドワードと共に司令部を後にする


「どこかでご飯でも食べていこうか」


「んー、今日は俺が作るよ。けど大佐ん家どうせ何も無いだろうから買い物だけしてから帰ろうぜ」







ロイの家に着くとエドワードは早速料理を作り始めた


「私も何か手伝おうか?」


「いい。先に風呂でも入ってこいよ」


以前ロイに手伝ってもらったことがあるのだが、野菜の皮剥きもまともに出来ないどころか、皿は割るし、水は零すしで大変だったのだ


だからロイの申し出はきっぱりと断った







ロイが風呂から出て来ると丁度エドワードがテーブルの上に料理を並べているところだった


「さっ、冷めないうちに食おうぜ」


「ああ、いただきます」


エドワードが作る料理はどれも家庭的な味がしてとても美味しかった


「いいお嫁さんになれるぞ」


「お、俺は男だ…///」


照れて暴れるエドワードを見ながらロイは幸せそうに笑った







ロイは漂ってくるコーヒーの匂いで目が覚めた


キッチンに行くとエドワードが2人分の朝食を作っている


「おはよう、鋼の」


「大佐、丁度よかった。今呼びに行こうと思ってたんだ」


「もう出来るから、とっとと顔を洗ってこいよ」と言うエドワードにロイは、ああ、と返事を返したが、しばらくその場でエドワードの姿を眺めていた


「んだよ、人のことジロジロ見て。減るだろ」


「それは困るな。いやね、朝起きて君がこうやって私のために朝食を作ってくれる、君が側に居てくれるということが、こんなにも幸せな事なんだと改めて実感していたんだよ」


「…恥ずかしーヤツ///」


ロイの言葉にエドワードは少し赤くなって俯く


その様子にロイはクスリと笑うと顔を洗うため洗面台へ向かった







朝食を食べた後、支度を済ませ玄関を出ようとするロイをエドワードが見送る


「じゃ、行ってくるよ」


「おう、気をつけてな」


「なるべく早く帰ってくるよ」


そう言いながら軽く口付けるとエドワードが照れ臭そうに笑った


まるで新婚の様だな、と内心呟きながらロイは自分の心が温かく満たされているのを感じた







「さて、どうしよっかな」


ロイが出て行った後、エドワードは家の掃除と洗濯をテキパキとこなしていった


時計を見るとまだ2時だ


「夕食を作るにしても早過ぎるし…ちょっと街に出てみるか」


エドワードは普段はあまり寄らない街の散策をすることにした







「ミャー…」


エドワードが歩いていると路地にある空き家から鳴き声が聞こえてきた


声につられて家の中に入ってみると、そこには鳥の翼を持った猫がいた


「合成獣!?こんなところに何で…あっ、怪我してる」


その猫は左足の付け根に怪我をしていた


エドワードが手を伸ばすと猫は威嚇するようにエドワードを引っかく


「痛っ、コラ、じっとしてろって」


エドワードはそのまま暴れる猫を抱き上げ、ハンカチで怪我をしている場所を縛った


「よし!これでちょっとはいいだろ?」


猫はエドワードをじっと見つめるとそっと側に寄り、先程引っかいた傷を舐めた


「心配してくれてんのか?そっか、ありがとな…ははっ、くすぐったいって」


エドワードは猫とじゃれながら楽しそうに笑った







「連絡があった場所はここか」


「はい、そのようです」


ロイの問いに下士官が答える


「よし、では突入する」


そう言ってロイは銃を構えながら中に入った







「ここに民間の施設から逃げ出した合成獣がいるとの通報が入った。大人しくそいつを…」


「大佐!?」


「鋼の!?何故君がここにいるんだ」


「何故って、偶然ここを通り掛かって…それよりコイツをどうする気だよ」


「むろん殺す。命令が出ているからな」


「なっ!ちょっと待てよ、コイツはそこら辺の凶暴な合成獣とは違う!!」


「そんなことは信じられん。それに例え凶暴でなくても合成獣だ、生かしておくことは出来ない」


ロイの銃は真っ直ぐに合成獣を狙っている


「俺の言うことが信じられないって言うのかよ!コイツを撃つって…」


「そうだ。邪魔をするなら君でも容赦はしない、そこをどきたまえ」


合成獣の前に立ち塞がるエドワードにロイは銃口を向けたまま冷たく言い放つ





ロイが自分に銃口を向けている…


俺の言葉は信じられない、と


悔しくて、悲しくて、俺はただ大佐を睨み付けることしか出来なかった





ドンッ――‥





ロイの撃った弾がエドワードの頬を掠め合成獣を貫く


「あ…何でっ…何でだよ――‥」


エドワードは動かなくなった合成獣を抱きながら涙を流した


「何で殺したんだよ!悪いのは人間なのに…」


「命令、だからだ」


「命令だったら何でも従うのかよ!そんなに出世が大事かよっ!!…俺よりも…」


「ああ、そうだ」


ロイの言葉にエドワードは傷付いた表情をして走り去った







分かってた…


大佐にとって出世することが最も優先されるべきことなんだって、


いざとなったら俺のことぐらい簡単に切り捨てるだろうってことぐらい分かってた


でも認めたくなかった、大佐の口からそんな言葉を聞くのが怖かった





エドワードは暗い気持ちのままロイの家へと帰った







(最低だな、私は…)


去り際の表情を思い出してロイは溜め息をつく


それでも、やはり自分にとっての一番は出世で、エドワードがその妨げとなるなら切り捨てる覚悟はあった


しかし本気で愛しているからこそ、そんなことにはなって欲しく無いと思う


(帰っても、もうエドワードは居ないだろうな…)


自嘲気味の笑みを浮かべ、ロイは何も考えなくてすむよう仕事に集中した


残業を終え、帰宅するロイの足取りは重い


今朝までの幸せな時間は夢だったのではないか、とまで思えてくる







家の明かりは付いていなかった


「行ってしまったか…」


言いようのない喪失感がロイを襲う





カチャッ――‥





念のため寝室を覗いてみるが、やはりエドワードの姿は無い


ロイは溜め息を一つつくとリビングに向かった


(一人の家はこんなにも広くて寂しいものだったろうか…)


「…っ」


軍服を脱いでソファーに座ったロイは、突然胸の痛みと息苦しさに襲われそのままソファーに倒れ込んだ


以前にもこんなことがよくあった…


イシュヴァール戦の後のロイは精神的に不安定で、不眠と今みたいな症状が続き精神安定剤を服用していた


医者が言うには極度のストレスと疲労からくるものだそうだ


「っ…はっ…エド…エド、ワード…」


霞む意識の中でロイはエドワードの名前を呼んだ







(どうしよう…出ていくタイミング完全に失っちまったな)


ロイの書斎でエドワードは内心呟く


あんなことの後で顔を合わせるのが気まずかったエドワードは、ロイが玄関を開ける音が聞こえて咄嗟に書斎に隠れてしまったのだ


しかしもう10分以上も隠れた状態でいるので今更出ていくのも恥ずかしい。が、ずっとこうしているわけにもいかないのでエドワードは意を決してリビングへ向かった







「大佐、お帰り…あれ?何だ、寝てんのか」


珍しいな、と思いながらもエドワードはロイを起こすためソファーに近寄った


「大佐ー、こんなところで寝てると風邪引くぞ」


声を掛けて身体を揺するが、起きる気配が無い


普段ならこれだけで十分起きるはずなのに何も反応が無いことを不思議に思い、もう一度声を掛ける


それでも起きないロイにエドワードは焦る


「おい、大佐!?しっかりしろ!大佐!!」


何度目かの呼び掛けにロイがうっすらと目を開けた


「大佐!どうしたんだよ、大丈夫か?」


「鋼の…?戻って来たのか?」


「何言ってんだよ、俺はずっとこの家にいたぜ?大佐が帰って来た時は咄嗟に隠れちゃったけど…」


「そうか、良かった…もう行ってしまったのかと思ったよ」


心底ホッとしたようにロイが呟く


「それより大丈夫なのかよ、顔色悪いぞ?」


「ああ、大丈夫だ。軽い発作だから」


「発作って、アンタ何か病気なのかよ?」


「いや、身体では無く心がね、こう見えても意外と心は弱いんだよ?最近は君がいるからか、発作なんてずっと無かったんだが…」


「嘘くせー」


「エド…」


急にロイが真面目な顔でエドワードを呼ぶ


「私が君のことを想う気持ちは、君を心から愛しているのは本当だ。だが、君の言う通り私は上に行くことを一番に考えている。だからもし君がその妨げとなるなら、私は君を切り捨てるだろう…」


ロイは辛そうに言うが、その言葉を曲げる気は無いようだ


「それでも共に、側に居てほしいと思うのは私の我が儘だ。それで君が離れていくのなら、それは仕方の無いことだと思っている」


ロイはそう言って俯く



「勝手だな…」


エドワードがポツリと呟いた


「アンタはさ、いざとなったら俺を切り捨てるけど、今は愛してるから側にいてくれって言ってんだよ?」


「…そう、だな…君の気持ちも考えずに勝手なことを言ってすまなかった」


ロイはそう言って辛そうに笑った


その表情はすでに別れを覚悟した諦めの色が浮かんでいた


「はぁ…アンタさ、本当に俺の気持ち何も分かって無いのな」


エドワードが溜め息混じりに言う


「だからすまなかったと…」


「そうじゃなくて!アンタ、自分だけが相手のこと好きなんだと思ってないか?俺だってアンタのこと好きなんだって、ちゃんと分かってる?」


「鋼の…?」


「だから、アンタが俺に側にいてほしいって思ってるように、俺だってアンタの側にいたいって思ってんの!それに直接アンタの口から聞いたときはちょっとショックだったけど、そんなこと分かってるし、俺だってアルが一番なんだ…等価交換、だろ?」


「…鋼の…ありがとう」


ロイは柔らかく微笑んだ


「…っ…」


「大佐!?」


急に胸を押さえて苦しむロイにエドワードは驚く


「大佐!大丈夫か?大佐!」


「ハァハァ…大丈夫、だ…」


「薬とか無いのか!?すぐ病院に…」


「…必要無い…!」


立ち上がりかけたエドワードの腕をロイが掴んだ


「必要無いって、そんな状態で…うわっ」


ロイがいきなり掴んでいた腕を引き寄せ、エドワードの身体ごと抱きしめた


「少しだけ…少しだけこのままで…」


ロイはエドワードの存在を確かめるように、その身体をきつく抱きしめた


エドワードがそのままの姿勢で背中をさすってやると、次第にロイの呼吸が落ち着いてきた


「大丈夫か?」


「ああ、薬なんかより君が側にいてくれた方が余程効く。私にとっては君が精神安定剤のようなものだからね」


「俺は薬かよ…」


少しムッとしながらも内心では自分がロイの安定剤になっていることに嬉しさを感じる


「しょーがねぇな、ずっと側にいてやるよ」


俺がいないとダメなんだろ?と悪戯っぽく笑うエドワードにロイも微笑んだ


「愛している…エドワード」


「俺も…」





いつかは別々の道を行くかもしれない、


もしかしたら敵同士になることもあるかもしれない…


それでも、今この瞬間に抱く気持ちは本物だから――‥





            fin.




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