鋼の錬金術師(ロイ×エド)
あの日の約束
コンコン――‥
「入れ」
「失礼します。大総統に面会です」
そう言って入って来たのはリザだった
部屋には大総統専用の椅子に掛けて執務をこなしているロイの姿があった
「私に面会?」
誰とは言わない副官に、少々訝しげな視線を送りながらもロイは部屋に通すことを了解した
リザは振り返り外にいる人物に声を掛ける
「入っていいわよ」
開けられた扉からピョコっと金色が顔を覗かせた
「よっ!久しぶり」
「鋼の!久しぶりだな、元気そうじゃないか」
「まぁな、アンタは?…って聞くまでもねぇか」
相変わらずなロイの様子にエドワードは小さく笑う
「おい貴様!大総統に向かって何と言う口の利き方、口を慎め!」
突然、エドワードは部屋の隅に控えていた佐官らしき男に乱暴に腕を掴まれた
「痛っ…」
「待て、中佐。彼はいいんだ」
「は、しかし…」
「中佐、私達はしばらく席を外しましょう」
リザがそう言って男と共に部屋を出て行く
「はぁ、アンタも偉くなったもんだよな。俺、ここに来るのにすげぇ大変だったもん」
いざロイを訪ねて来たはいいが、今のエドワードは一般人だからそう簡単に入れるわけもない。ましてや大総統への面会となれば尚のことだ
「ホークアイ中尉に会えなかったらここまで来れなかったかも…」
「そうか、それは大変だったな」
げんなりとした表情のエドワードにロイは苦笑する
「ああ、ちなみに彼女は今は中佐だよ、私と共に他の部下も昇進したからな」
「へぇー、ホークアイ中佐か、なんか慣れねぇな。アンタのこともつい大佐って呼びそうになっちまうし」
「別に構わないさ、私も君のことを“鋼の”と呼んでしまっている。もう君は“鋼の錬金術師”では無いのにな…だから私のことも好きに呼びたまえ」
「じゃ、無能。」
「…それは勘弁してくれゞ」
「まぁ、立ち話もなんだから掛けたまえ」
ロイはエドワードにイスを薦めると、自分も向かい側に腰掛けた
「しっかしアンタ、髭なんて生やしてんのかよ」
「ちょっとは貫禄がついたとは思わないかね?」
「童顔気にしてたもんな」
ボソリと呟かれた一言にロイがピクリと反応するが、それも一瞬のことで途端にニヤリとして言い返す
「おや?君は随分と背が伸びたようだが…ああ、前が小さすぎたのか、これでもう“豆”と呼ばれることも無くなったわけだ」
「くそ〜、嫌味な奴!」
エドワードが顔をしかめるのを見てロイが笑う
「はは、君も相変わらずだね。そういえば今いくつになるんだ?」
「29。あの時のアンタと同じ歳だよ」
「そうか、早いもんだな」
ロイの言い方にエドワードは思わず吹き出す
「ぷっ、なんかオッサンみてー!」
「失礼な、私はまだ42だぞ」
「42って言ったら十分オッサンじゃねぇか」
「…」
そのセリフにロイは何も言い返すことが出来なかった
「そういえばコレ、大総統になったアンタへ」
そう言いながらエドワードはブルーの紙で包まれた小さな箱をロイに差し出した
ロイはそれを受け取り中を確かめる
「ボールペン…?」
「本当はもっとちゃんとした物を、と思ったんだけど520センズの物がこれしか無くてさ、」
“520センズ”
それはあの日、車の中でした約束――‥
―大佐が大総統になったら返してやるよ―
あの日の約束を果たすためにわざわざこれを選んで渡しに来てくれたのだと思うと胸の中に温かな気持ちが込み上げてきた
「まさか忘れた訳じゃねぇよな?」
「もちろん、覚えているとも。ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
ロイの言葉にエドワードは照れ臭そうに笑った
「ところで、あの時俺が言ったこと覚えてる?」
エドワードの問い掛けにロイは記憶を遡る
そこでロイはあることに思い当たった
「おっ、思い出したみたいだな」
「ああ、確か…“民主制になったら返してやるとか言ってまた金借りてやる”だったかな?」
そう言いながらロイは苦笑する
「よく覚えてんじゃん。でも金より物のがいいな」
部屋を見渡すと、ふとある物が目に留まった
「コレにする」
「それはちょっと…」
エドワードが手にしたのはロイの発火布だった
「ダメ。いいだろ?代わりくらいいくらでもあるんだし」
「まぁ、それはそうだが…」
「じゃあ、コレに決定!」
「…仕方ないな」
ロイの了解を得たエドワードは、早速発火布を手に嵌めてニヤリと笑った
「コイツはアンタが国を民主制に変えて、この国から戦争を無くすまで俺が預かっとく。コレが必要無い平和な国になったときにまた返しに来てやるよ」
エドワードの言葉にロイは目を閉じ、一つ深呼吸をして、真っ直ぐエドワードを見た
「分かった。それまでそれは君に預けておくよ。だが必ず返して貰うからな」
「おう!楽しみにしてる」
ようやく理想が手の届きそうなところまで上り詰めたが、まだまだやることは山積みだ
“誰もが笑って暮らせる平和な世の中”にする為、私は私の出来ることをしよう
いつか君がそれを返しに来た時、胸を張って受け取ることが出来るように――‥
fin.
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