鋼の錬金術師(ロイ×エド)
温もりの先に(原作沿い ロイvsエンヴィー後)


バイバイ・・エドワード・・・エルリック――・・



エンヴィーが自死という形で消え去った後、その場には床に座り込んで悔しげに顔を歪めるロイとそれをただ無言で見つめるエドワード、リザ、スカーの4人がいるだけだった



しばらくの沈黙ーー・・



最初に口を開いたのはエドワードだった

「中尉、あとは俺が・・・」

そう言って苦笑すると、リザもスカーもその意志を汲み取ったのか、頷くとその場を後にする





エドワードはロイの側まで来ると自分もしゃがみ、俯いたままのロイをそっと抱きしめた

「は・・・がね・・・の?何を・・・」

突然のことに驚き固まるロイ

「こうするとさ、落ち着くんだぜ?昔、俺が泣いてた時に母さんがよくやってくれたんだ・・・」

トクン、トクンと規則正しい心臓の音と伝わってくる温もりがロイの心を溶かしていく

張り詰めていた肩の力がすっと抜けていくのが分かった

「私とアイツ・・・ヒューズは士官学校からの仲でね・・・」

ふいにロイがポツリと話し出す

「士官学校の頃から私は色々と皆に妬まれてね、友達と呼べる者もおらず一人でいる事が多かった。そんな私にアイツはいつも、何かとちょっかいをかけてきたんだ・・・」

そう言うとロイは遠い昔の士官学校時代を思い返すように目を閉じた

「最初は欝陶しいだけだったが、不思議なことにいつの間にかそれが嫌じゃ無くなっていたんだ。ああこれが"友達"なんだなって思ったよ。まぁ実際は友達というより"悪友"だったんだがな」

ロイは苦笑する

エドワードからはロイの表情は見えないが、今この男はきっと悲しそうな顔をしているのだろうということだけは分かった

「軍に入ってからもその関係は変わらなかった。口を開けば妻と娘の自慢や早く嫁を貰えと煩かったが、いつも私の事を心配してくれて、変わらない態度で接してくれることに安心もしていた・・・ヒューズが死んだ時、私は胸に誓ったんだ。絶対この手で犯人を捕まえると」

エドワードは時折相槌を打ちながら、ロイの話を静かに聞いている

「ラストとか言うホムンクルスを倒した時はこんな風では無かったんだ・・・守るべき者達が側にいたからとにかく必死だった。でも今回は違う、エンヴィーがヒューズの妻に化けたのを見た途端、自分じゃどうにもならないくらいのドス黒い憎しみの感情が沸き上がってきて心の底から"コイツを殺してやりたい"って思った・・・君達が止めていなければ確実に殺していただろうな」

自嘲気味に言うロイにエドワードは、でも、と続けた

「アンタがエンヴィーを殺さなくて良かったと思う・・・復讐は何も生み出さないから」

「・・・分かっていたつもりだったんだがね・・・中尉にもあんな真似をさせてしまった・・・」

ロイは小さく息を吐いた

「昔、彼女を副官に任命する時に"私が道を踏み外したら迷わず撃ち殺せ"と言った事があったが・・・やはり彼女に任せて正解だったよ。彼女といい、君といい、私は良い部下を持てて本当に幸せ者だな」

「俺さ、前にヒューズ中佐に言われたんだ・・・」

呟かれた言葉にロイが顔を上げる

エドワードはロイの横顔を見つめながらヒューズとの会話を思い出していた




+++++



ーーエド、お前ロイの事どう思ってる?



「どうって・・・何考えてんのかよく分かんなくて、スカした嫌味なヤツ」

エドワードがむすっとして答えるとヒューズは確かにその通りだ、と言って笑った

「でもな、アイツは感情を表に出すのが下手なだけで本当は繊細で仲間思いの良いヤツなんだ。口には出さないけど、お前達兄弟の事も結構心配してんだぜ?」

「えー?会うと嫌味ばっかだぜ?」

口を尖らせて文句を言うと、ヒューズはエドワードの肩に手をぽんと置いてそう言ってやるな、と苦笑した

「上官としてのプライドと照れ隠しもあるんだろ、そういうとこは意外と不器用だからな。んで、お前達もそうだが、アイツは人に頼ることをしない。何でも一人で抱え込んで突っ走っちまう。そんなんじゃ、いつかてめぇが壊れちまうって俺は心配なんだ」


ーーだから俺はアイツを支えてやりたいと思う


そう口にしたヒューズの顔をエドワードは一生忘れることは無いだろう

信頼とも愛情とも取れる、すべてを包み込むような大きな友愛

「だからエド、お前ももしアイツに何かあったときは助けになってやって欲しい――‥」

ヒューズの言葉にエドワードは分かった、と頷いたのだった



+++++



「ヒューズがそんな事を、ね」

「あの時はあんま実感無かったけど、今ならアンタの事や中佐の言いたかった事が分かる気がする・・・」

守るべき子供と思っていた相手が、いつの間にか立派に成長していた事に驚きつつも僅かばかりの寂しさを滲ませ、ロイはふっと笑った

「まさか君に助けられるとはね・・・」

だが、そう言って顔を上げたロイの表情は晴れやかだった

エドワードは立ち上がりそんなロイを指差してきっぱりと言い放つ

「だからアンタは真っすぐ上を目指さなきゃいけない!ヒューズ中佐や司令部のみんな、アンタを支えてくれる人たちの為にも」

そして、少し俯き照れくさそうに続けた

「俺も・・・元の身体に戻ったらアンタの下で支えてやってもいい」

その言葉にロイが驚き目を見開くと、エドワードは恥ずかしくなったのか後ろを向いてしまった

「ほら、そんなとこにいつまでも座ってねぇで早く行くぞ」

そう言って歩き出したエドワードにロイは苦笑する

「・・・まったく、君には敵わないな」

立ち上がり歩き出したロイの表情はいつもの自信と余裕を取り戻し、前だけを見つめていた





fin.



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あきゅろす。
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