蛇足
3
見た事のない景色に焦って思わずバスを降りてしまったが、当然そこが何処なのか分かる訳がなく、楓はただ立ち尽くす。
マンガみたいだと呆然と思う。
今日は入試の日でいくら緊張してなかったからといって乗り過ごしてしまうなんて。
ため息をついて左手首の時計を見る。
時間は既に試験が始まっている時刻を指していた。
今から遅れるという連絡をしても無駄だろう。
ならまずは、此処から脱する事を考える。
とりあえず唯一の救いといえば今居る場所だ。
マンガのお約束でなら田畑ばかりのバスも1時間に一本というド田舎に辿り着いているものだが、楓が居るのは比較的都会の携帯の電波も通る所だ。
携帯のGPS機能を使えば何て事はない。
「使い方の説明聞いといてよかった…」
ほっと呟き、携帯をバッグから取り出す。
楓はそもそも、機械には弱い。勿論携帯も例外でなく、母から持てと強く言われなければ持とうなどと考えなかった。
自分には必要ないだろうと思っていたが、この時ばかりは母に感謝した。
携帯ショップの店員に説明された通りの手順でボタンを押していく。
楓と同じ年頃の若者がするそれよりひどく鈍く、かつ確かめるように慎重に操作する。
やっとの事でGPS画面に切り替え、現在位置を確認した。
画面の簡易地図の真ん中に赤い星印が付いている。
画面上で言うと左側に、見覚えのある地名が書いてあった。どうやらそう遠くには来ていなかったらしい。
安堵のため息をついて、楓は歩き出した。
「(そういえば)」
ふと楓は思い当たる。
「(俺、滑り止めどこ受けるんだったっけ?)」
第一志望の道が潰えた今、名ばかりに選んだ滑り止めの学校を受ける事になる。
ただ、担任に合格確実と言われていただけにそんなものに興味がなかった。
下調べも一切ナシに、どこか適当に選んだ筈だ。
そのときの担任の反応が頭に残っている。
『此処?……まぁ君なら第一に確実合格だし…大丈夫か』
と、普通に聞いたら無責任な発言をされた。だが担任は元より自分も自信があったから特に気にとめなかった。
まさかこんな事態(失態)が起こるとは誰も予測できなかったろう。
「聞いとけばよかったな、せめて校風とか」
後に、彼は切にこれを思うようになる。
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