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蛇足


「楓を睨むな」



突然楓の頭上からとてつもなく低い声がよしおに向かって放たれた。

言わずもがなそれは彦星のものだ。

彦星は怒ると普段からは考えられないような低い声を出してくる。

今までは楓の前で彦星がのそのような声や姿を見せてくる事はあまりなかった。

しかし最近は少し違ってきていた。

楓がよしおと居るのを目撃すると彦星はすぐさま間に入って来ては威嚇するよいによしおに食ってかかるのだ。

せっかく友達の友達は友達だろ作戦でよしおとの仲を取り持てたと思っていた楓は溜め息をつくしかなかった。

よしおもそんな彦星の態度に最近は慣れてきたようではあったが、やはり心の奥では彦星を恐れているのだろう。

どんなに彦星が一方的によしおに怒ってきても、よしお自ら彦星に手を出す事はなかった。

しかし今回は違った。

よしおはいきなり激変した彦星の声に一瞬眉をひそめたものの、それに怯む事なく今度は彦星自身を睨み付け始めた。

睨み合う二人。

楓からは彦星の表情を伺い知る事はできないが、先程の声からすると確実に彦星もよしおを睨みつけている事だろう。

その間に立たされた楓は重苦しい気分で、ただひたすら薄汚れた床を見つめていた。

楓は彦星とは(大)親友だ。

そしてそれはよしおとも同じなのだ。

出来る事なら仲良くして欲しい。

それにこの二人くらいなものなのだ。

このクラス…いやTSUTAYA学園で楓に話しかけてきてくれるのは。

蛭池はもともとあまり教室には来ないし、来ても殆ど(彼女と)メールをしている。


たったの二人だけ。


こんなに沢山のクラスメートが居るのに。

パシリの一件以来、楓はパシリに使われたり暴力を震われたりする事はなかったが、今度は逆に誰も楓に関わってこないようになった。

彦星がベッタリなせいもあるだろうが、理由はそれだけではないだろう。

何故なら彦星はクラスの誰とでも仲が良かった。

クラスメート達からはヒコと呼ばれ何だかんだ言って構われる、いわゆる愛されキャラなのだ。

しかし、そんな彦星の隣にいつも居る楓にはクラスメートの誰もが一切話しかけてこないのだ。


(一時期影ではムッツリと呼ばれていたようだが……)


用があって楓から話しかける事があっても素っ気ない返事しか返ってこない。

それに対して楓は気にしていないフリをしつつも、いつも心の片隅に寂しさを感じていた。

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あきゅろす。
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