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蛇足

よしおは目の前で繰り広げられる楓と彦星のやり取りにひたすら目を奪われていた。

突然彦星が自分と楓との間に割り込んで来てからというもの、二人は完全によしおの存在を忘れているようであった。


「(何なんだ……こいつら……)」


楓を背中から抱き締めて離さない彦星。

そしてそれをさも当たり前のように享受する楓。

常識で考えるならば友達と言えどかなり近すぎる距離感だ。

しかし、よしおはそんな二人の異常なまでに密着した関係にに嫌悪という感情を抱く事は全くなかった。

そのような感情は一切現れなかったのだが……

よしおの中では何か釈然としないようなモヤモヤとした気持ちが、ただ漫然と巣くっていた。

「(面白くねぇ)」

よしおは知らず知らずのうちに目の前でベタベタと密着し合う二人を睨み付けていた。

「(マジで面白くねぇ……こいつら一体どんな関係なんだよ)」

友達……

にしては近すぎる距離感。

それに明らかに彦星が楓を見つめる瞳は“友達”を見つめるソレとはかけ離れている。

どう言えばいいかわからないが、彦星が楓を見つめる目はどこか熱を帯びているように見える。
欲望をたたえたその目。

それは明らかに“男”の目だ。

無邪気さの奥に光る、獰猛な肉食獣のような目によしおはゴクリと唾を呑んだ。

「(まさか……)」

最初に楓と帰り道を共にした時、楓は彦星と共に住んでいると言っていた。

という事は全てをこの二人は共にしているという事だ。

そこまで考えてよしおはギリと自分の奥歯を噛み締めた。

自分の導き出した結論に、よしおは湧き上がる感情を抑えられずに居た。


「(付き合ってんのか……?)」


そう改めて思った瞬間


よしおは手に持った物を全て落としていた。

そのせいで、今まで全て彦星に向けられていた楓の視線がサッとよしおに向けられた。

その瞬間、楓は苦虫をすりつぶしたような表情をその顔に浮かべる。

「(面白くねぇ)」

彦星に至っては何か得意気な顔でこちらを見てくる。

それどころか楓に回していた腕の力に更に力を込めている。

まるで楓は自分のものなのだとでも言うように。

「(気に入らねえ)」

そう思い思わず拳に力を込め、二人から目を逸らした。

だが

そこでよしおはある疑問を抱いた。

「(何で俺はこんなにイラついてんだ……?)」

よしおは自分の中にモヤモヤとくすぶる己の感情を理解出来ずにいた。

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