蛇足
2
「ヤダ!ヤダ!楓ごめんなさい!これからは朝もちゃんと起きるよ!だから楓明日も明後日もずっとオレの事起こしてよ!」
コイツ……!
自分で起きるといいつつ結局俺に起こしてとか言ってやがる……!
「あのなぁ彦星。朝ちゃんと起きるんなら、俺が朝彦星を起こす必要なんてないじゃないか。まったく……言ってる事が矛盾してるよ彦星は」
楓が呆れたように言うと彦星はしょんぼりした声のまま、楓の頭の上から声を落とした。
楓からは彦星の表情は見えないが、きっとその顔も悲しそうな表情を浮かべているのだろう。
「……むじゅんって何?」
「辻褄が合ってないって事」
「つじつまがあってないって何?」
「話の筋道が通ってないって事……わかった?」
「……うん」
体に伝わって来た振動で彦星が小さく頷いたのがわかる。
「だったらわかるだろ?自分で朝起きるって言ったんなら、彦星は俺が起こさなくてもちゃんと起きれる筈だ。な?できるだろ?」
「……できる」
「なら「けど楓が起こしてくれないと……オレ嫌だ」
は?」
何言ってんだ、彦星は?
あー、意味がわからん。結局彦星は一体どうしたいんだ?
「オレ朝一番最初に見るのは楓じゃなきゃヤダ」
一番最初に俺を見なきゃヤダって……
だから彦星は俺に起こされたがってるのか。
まぁ、そら確かに彦星が目覚めて一番最初に見るのは起こしてる俺だよな。
でも何で俺なんかを朝一番に見たいんだ?
意味がわからん。
「……えぇと彦星…俺…意味がわかんないんだけど」
楓が訝しげな声を上げると彦星は何やらもどかしそうに楓の首筋に顔をうずめた。
彦星は最近、何かある度に楓の背中に抱きついてはこの体制を取る。
その何かというのが、今のように楓に言いたい事が伝わらなかった時や、楓に何か伝えたい事がある時など、彦星から上手く意思の疎通が成されない時だ。
そんな時、決まって彦星は悔しそうに楓に抱きつくのだ。
まったく……
楓は困ったような顔で背中に伝わる温もりを感じると、自分の肩辺りにある彦星の頭をゆっくりと撫でてやった。
甘いよなぁ、俺
楓は自分の彦星に対する甘さに苦笑を漏らすと、なるべく優しい声で彦星に話かけた。
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