蛇足
2
「…なぁ、堀田君」
「キモチワリッ名前で呼べよ」
「…彦星くん」
「くんもいらねーって」
彦星、と呟くように呼ぶと彼は満足そうに頷いた。
彦星なんて名前、親はどんなメルヘン趣味してんだろうか。
もしかして、安易に誕生日が7月7日だからとか…
「彦星…は、誕生日いつ?」
「ん?12月25日」
安易どころか意味不明だ。
そんな聖なる夜に授かった彼にどうして彦星と名付けてしまったのか。
そもそも、そんな名前じゃ幼い頃はそれだけでイジメられそうなものを、彼は全くコンプレックスにしているようじゃない。
むしろ堀田と呼ばれるのを嫌っているし。
ズレている。
いや、この学校の連中からバカ呼ばわりされるんだから並の常識で見ても意味がない。
保健室に到着するも、担当医は居なかった。
いやもしくは学校自体に担当医なんて存在しないのかもしれない。
室内は例の如くガラスというガラスは割れ薬品棚のあらゆる薬は開けられ何故か包帯が散乱し、煙草、使用済みコンドーム、アルコール類の瓶や缶が無造作に投げ捨てられていた。
多分校内で1番荒れているだろう部屋だ。
「な、楓。やっぱりお前つわりなんだろ?」
…ズレているだけではどうも片付かないようだ。
もう何やら、バカだけでは彼の脳内は言い表せない。
いや、バカというだけでは足りない、もっと何か…彦星の脳みその腐れ具合を表すいい表現はないものだろうか。
彦星にまだ気分が悪いならとベッドを勧められたが、使用済みのそれらが周りに散乱している状態のベッドに横になるなんて楓には出来なかった。
代わりにベッドには彦星が寝そべり、楓は辛うじて椅子と呼べそうなそれに腰掛ける。
「悪阻な訳ないだろ。何でそうなる」
「だってオレの姉ちゃんが」
「あぁそこ重要だな、姉ちゃん。悪阻ってのは女性…妊娠してる人に限ってなるものだから男の俺には無理なの」
「え?でもつわりってキモチワルくなる事だろ?何で女がなるそれだけ名前があるんだ?」
「だから…………はぁ、本当探求心はあるというか…周りはどうしてお前の質問に答えてあげなかったんだろうな」
「親達もバカだから分からないんじゃね!!」
「凄く簡潔で分かりやすい見解だけど、それを明るく言うお前に空しさというものはないのか」
むしろ、彼の相手をしている自分に空しさを覚える楓だった。
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