蛇足
相談者三木楓様
「あのさ、蛭池君。ちょっと相談があるんだけど」
「あ?」
蛭池はイチゴミルク片手に、突然自室に現れた楓をジッと見つめた。
やはり自室でもグラサンは常備である。
「何だ楓、藪から棒に」
蛭池がイチゴミルクを床に置いて答えると、楓は遠慮がちに蛭池の部屋へと入ってきた。
「うん、ほんとに突然ごめん」
楓はすまなそうな顔をすると手に持っていた袋からイチゴミルクを取り出した。
「これ、蛭池君飲むかなと思って持ってきたんだけど……もう持ってるみたいだね」
楓は既に蛭池の手にあるイチゴミルクを苦笑しながら見つめた。
「いや、わざわざすまねぇな。俺はイチゴミルクはいくつあっても足りねぇ主義だから、それは有り難く頂いておくぜ」
蛭池は楓からイチゴミルクを手渡されると、口もとに薄く笑みを浮かべた。
相当嬉しいようだ。
そんな蛭池の様子に楓は微笑むと、蛭池の前に正座をした。
「体は大事にね、蛭池君」
「あぁ……んで?楓、相談ってのは何だ」
蛭池が尋ねると、楓は何やら言いにくそうに眉を寄せた。
「うん……ちょっと…何て言うか、言葉にしずらいんだけどね」
いつもハッキリ物を言う楓にしては珍しい態度である。
そんな楓の様子を蛭池は手を顎に当てて見ていると、何か思い当たったようにボソリと呟いた。
「相談……それってもしかして彦坊の事か?」
蛭池のその言葉に楓は目を見開いた。
「何でわかったの?凄いな蛭池君は」
心底感心したような楓の顔に、蛭池はイチゴミルクを片手に「まぁな」と呟いた。
「楓、オメェ気付いてねぇかもしれねぇが、最近楓が困った顔して口から出す言葉は全て彦坊の話ばっかだぜ?」
そう話す蛭池の声は何やら面白がるような、楽しそうな気色を含んでいた。
「そんなにいつも困ったような顔してる……?」
「あぁ、楽しそうな様子の中にも、常に困った様子を含んでやがるぜ。ここ最近は特にな」
「あー……そーかも」
そう言って乾いた笑いを浮かべる楓に、蛭池はフムと考え込んだ。
もしかすると
もしかするのかもしれない
蛭池は目の前に居る大親友にある仮定を立ててみた。
楓は
彦星の気持ちに気付いているのではないか
と。
頭の良い楓の事だ。
その可能性は高い。
それに気付いてないにしても、何か勘付いているのは確かなようだ。
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