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蛇足

彦星に楓への気持ちを気付かせる。

これはなかなかに難易度の高いミッションだ。

蛭池は考え込むように顎に手を添える。

わかりやすく

単純に

しかも本人が実感できるように

その3つを目標に彦星に好きという気持ちを教えてやらなければならない。

「(……無理だろ)」

蛭池は目の前でひたすら楓の事について話しまくる彦星を前に溜め息をついた。


彦星と1分間ほど同じ空間の中に居れば誰もが身を持って理解できる事なのだが


彦星は馬鹿なのだ。


ちょっとやそっとの馬鹿ではない。

凄く馬鹿なのだ。


彦星の頭は毎日が日曜日。

きっと学校は彦星にとって遊園地。

テストで3点。

だが笑顔だけは満点。

そんな某女の子向けアニメのオープニングのような奴なのだ。

ちなみに今の蛭池の着信音はそれである。

蛭池は静かに思考を停止させると、グラサン越しにしっかりと彦星を見つめた。

わかりやすく

単純に

しかも実感を伴うように

ならば………

「(直球でいくしかねぇな)」

蛭池はグラサンを指で押し上げると、今まで適当に打っていた彦星の話への相槌を止めた。

いきなり反応の無くなった蛭池を彦星が不思議そうな顔で見つめていると、突然蛭池が口を開いた。

「なぁ彦坊、そういえばおまえ今付き合ってる奴はいるか?」

「今?いねーよ!なんで!?」

「いや、女好きの彦坊が最近妙に大人しいと思ってな」

「うー、オレそんなに女好きじゃねーよ!今は女より楓の方がもっと好き!だからオレ今は女とは付き合わねーの!」

楓との時間が減っちゃうだろー!
そう言って笑う彦星に蛭池はガクリと肩を落とした。

「(そこまでわかってて、どうして楓への気持ちに気付かねぇんだよ……)」

「んー?どーしたんだ?池ちゃん?」

「いや、何でもねぇよ。……そういや彦坊、お前今誰かと付き合うってなったらまず何をする?」

「何?!何それ!心理テスト?!」

「いや……まぁ、うんそんなとこだ」

蛭池のその言葉に彦星がキラキラと目を輝かせると、腕を組んで真剣に考え始めた。

「………んー?エッチ?うん、付き合ったらエッチする!」

何の躊躇いもなくそう言い放った彦星に、蛭池はやっぱりか……と頭を掻いた。
彦星の中では

性行為=恋愛

という何とも衝動的かつ単純な方程式が成り立っているようだ。

ならば恋愛とは何かなど、そんなまどろっこしい精神論を彦星にしても無駄だ。

そしてするつもりもない。

彦星の中でそのようなルールが既に存在しているのならば

それを使ってわからせるまでだ。

「(楓にはワリィがな)」

蛭池は心の中で此処には居ない大親友に謝罪した。

もうこの際蛭池にとっては何でも良かった。

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