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蛇足
彼の二者択一
柳川よしおは苛ついていた。

理由は今自分の隣を歩く、1人の小柄な同級生にあった。

「(面接でババァと何してやがった、こいつ)」

よしおはひたすらその事が頭の中を駆け巡って仕方なかった。



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楓を面接の為に自宅に押し込んだ後、よしおは特に客の来る事もない店内にソワソワと立っていた。

自分の母親に限って不採用という事はないだろうが、それでもよしおは落ち着かなかった。

『(不採用になんかしてみろ、クソババァ。マジ許さねぇ)』

よしおは楓達が入って行った扉をチラチラと所在なさ気に見ながら思った。

よしお自身、何故そんなに楓に対してムキになっているのかはわからなかった。

だが、その時のよしおにはそんな事を気にする余裕はなく、ただひたすら楓の面接が終わるのを今か今かと待ちわびるだけであった。

すると、程なくしてよしえと楓は家から出てきた。

『結果はどうなんだ?!クソババァ!』

二人が出てきた瞬間、よしおはそう言うつもりで振り返った。

しかし、その言葉は口に出される前に、よしおの中に飲み込まれた。

その代わり、よしおの口からは考えていたものとは違った言葉が戸惑った声と共に呟かれていた。


『…お前……顔真っ赤だぞ』


普段、赤面させられっぱなしのよしおは 、いつもと反対の状況に戸惑うしかなかった。

面接を終えて現れた楓は茹でダコのように真っ赤で、顔は終始俯きがちだった。

全くもって意味がわからない。

楓はバイトの“面接”をしに自分の母親と家に入って行った筈だ。

なのにそれがどうして楓をこんな顔をさせたのか。

面接時間約10分。

その間に楓に何が起こったのか。

謎だ。

しかし、一つだけ明らかな事がある。

楓をこんなにした原因。

それは、今目の前でニコニコと笑い続ける自分の母親であるという事だ。

『(ババァ……一体何しやがった)』

そんなニュアンスを込めてよしえを睨むも、よしえはやはり嬉しそうな表情を崩す事なくニコニコとしていた。

イライラする。

このひたすら笑顔を崩さぬよしえにもイライラするが、やはり一番よしおを苛つかせたのは―――


『おい、何してたんだよ?』

『…………』

『ババァに何かされたのか』

『…………』

『………っくそ!何か言え!』

『…………』


楓はよしおの問いに終始無言で首を振るのみで、一切の言葉を発しなかった。

それどころか、よしおを見ようともしない。

それが更によしおを苛つかせた。

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