蛇足
4
―――よしえさんみないなお母さんが欲しかった
楓がポツリとそう呟くと、今まで楓の手を握り締めブンブン振っていたよしえは急に固まってしまった。
表情もなんだか驚いたように目がパチリと見開いている。
……俺、今何て言った?
よしえさんがお母さんだったらよかったのに的な事言ったよな?
ヤバい!
俺、高校生にもなって何て事言ってんだ……恥ずかしい恥ずかしい!
マジ恥ずかしい!
よしえさんだって反応に困って……え?
楓が自分の恥ずかしい失言に、顔を真っ赤にして俯いていると、突然楓の体が何か柔らかいものによって包み込まれた。
何だ何だ?!
何が起こった?!
楓が突然の事に体を硬直させていると、楓の体を包んでいたものがゆっくりと離れ、楓の目の前に現れた。
それは、キラキラと表情を輝かせたよしえだった。
「かわいい!!楓ちゃんだったら私も息子にしたいわ!なんなら私の事はお母さんと呼んでくれて構わないから!」
「…………うわ!」
興奮気味のよしえに対し、楓は突然現れた至近距離のよしえの顔に驚きの声をあげた。
い……今、ここによしえさんの顔があるって事は……さっき俺を抱きしめていたのはやっぱり……
よしえさんかよ?!
ちょっ……マジで何事ですか?!
マジでないだろ、俺?!
……てことは俺、よしえさんより体小さいのか?
楓が混乱の余り、思考をあちらこちらに飛ばしていると、よしえは再度楓の手を掴んだ。
「楓ちゃんはもうウチの子よ!ウチの子達はだぁれも楓ちゃんみたいに甘えてくれないから、私凄く嬉しいの!だから楓ちゃんは私をお母さんだと思ってどんどん甘えて頂戴!」
熱い。
クラクラする
よしえのキラキラとした表情と、恥ずかしさからくる混乱で楓は頭がフラつくのを必死で支えた。
もう何が何だかわからない。
そして楓は混乱した頭を抱えたまま
「え?あ?はい?」
と、どもりながら返事をする事しかできなかった。
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「じゃあ、楓ちゃん?来週から週3日。よろしくね?」
「は……はい。」
楓は俯きながら小さく返事をした。
隣ではそんな楓を訝しげに見つめるよしおの姿。
顔を真っ赤に染めて先程家から出てきた楓に、よしおはひたすらどうかしたのかと尋ねた。
しかし、楓はそれに対してブンブンと顔を横に振るだけで一切何も答えようとしなかった。
そんな楓の姿によしえは終始嬉しそうな表情を浮かべたままである。
「(このババァ何かしやがったな)」
よしおが自分の母親を睨みつけるも一切効果はなく、よしえはただご機嫌な様子でそれを受け止めるだけであった。
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