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蛇足

「楓ちゃんはよし君の事……好き?」

「…………は?」

上目遣いでそう尋ねてくるよしえに楓は一拍おいて抜けたような声を上げた。

「えぇとよしお君の事を俺が好きかどうかですか?」

「そうよ。よし君はちょっと乱暴だけど、きっと楓ちゃんの事は大好きなのよ。だから楓ちゃんがそうじゃなかったらお母さん悲しいもの」

よしお君ー。
愛されてますねー。
なのに何故きみはグレた?!


いや、今はそんな事言ってる場合じゃないか。

俺がよしお君を好きかって?
そりゃあ好きさ!
なんたってよしお君はTSUTAYA学園じゃ珍しい常識人!

TSUTAYA学園の絶滅危惧種なんだからな、俺含めて。


そこまで思考を進めると楓はにっこりとよしえに微笑んだ。

「勿論です。俺はよしお君の事が大好きですよ?」

――大好きですよ

楓がその言葉を発した瞬間。

よしえの表情が今までで一番明るく輝いた。

「まぁ!よかったわ!楓ちゃんがそう言ってくれて!私も凄く嬉しい!これからもよろしくしてあげて!楓ちゃん」

そう言って笑顔で楓の手を取りブンブン上下に振るよしえに楓は少しだけ、よしおが羨ましくなった。

自分の母親はこんな風に自分の事を想ってくれた事はあっただろうか。

確かに楓の母親は楓の交友関係はかなり 厳しくチェックしていた。

しかし、それは楓の事を想ってというより、楓が余計な友人から余計な影響を受けないようにという一種の管理的要素が強かった。

その為、楓は小学校から中学時代まで、母親によって付き合いを切られた友人は数多く存在した。

それが愛情の上に成り立つものだったとしても、それを楓は素直に“親の愛情”だと受け止める事はできなかった。

愛情という暖かさはそこにはなく、ただ籠の中の鳥を世話する……いや、“管理している”ような感覚しか楓には与えられなかった。

だからこそ、楓には今目の前にいる心底嬉しそうな顔をした女性を母親に持つよしおが羨ましくて仕方なかった。

そこには暖かさがある。

確かな愛情が感じられる。

多分この人は息子がどんな友人と付き合おうが、そんなのは関係ないのかもしれない。

いや、きっと関係ない。

ただ相手が息子の事を好きで居てくれたらそれでいいのだ。

羨ましい。
本当に羨ましい。

楓は少しだけ泣きそうになったが、すぐ笑顔でよしえを見た。

「俺、よしえさんみないなお母さんが欲しかった」


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あきゅろす。
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