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蛇足

あ、また顔逸らした。

楓は逸らされたよしおの顔がまた真っ赤になっているのに気が付いた。

いまの流れのどこに赤面ポイントがあったんだ?よしお君は……


余りにも顔が赤いよしおに楓は更によしおに顔を近付けるが、それは逆効果で更によしおは顔を真っ赤にさせるだけであった。

その距離わずか10p。

あと少し近付けば鼻と鼻がぶつかりそうだ。

この時点で楓はその距離感が異常に近いものだとは全く感じてはいなかった。

日々楓にベッタリな彦星との同居生活のせいで、楓は他人との距離感がイマイチわからなくなっていたのである。

「よしお君は照れ屋だなぁ」

楓の呑気な声によしおは眉をピクリと動かした。

「(〜っ?!人の気も知らねぇで!!)

ッテメーの顔が無駄にちけぇーんだよ!離れろ!」

よしおのその言葉に楓はハッとした。


またやらかした……

くっそー!他人との距離感狂いまくりなんだよ!彦星のせいで!

あぁ……こないだ直さなきゃって思ったばっかなのに……


「スミマセンイゴキヲツケマス」

そう言って顔を青くした楓は素早くよしおから離れた。

すると、何故かよしおは楓との間に生まれた距離に自分が何やら物足りなさを感じている事に気付いた。

「(……俺は一体どうしたいんだよ…)」

よしおは自分の中に生まれた言いようもない感情に、クソッと呟くとグシャグシャに頭をかきむしった。

「いや!ごめんごめん!マジでごめんなさい!もう二度としませんから!!」

「は?」

突然の楓からの嵐のような謝罪に、よしおはポカンとする。

「オレ気をつけるつもりだったんだよ……こう他人との距離って大事だろ?だからさ」

「(何言ってんだコイツ)」

「だから俺今いろいろ狂っちゃってるんだよね、感覚が。ほんとこれからは気を付けるから」

「お前何で謝ってんだよ」

「え……と」

よしおの言葉に楓は言いにくそうに口ごもる。

「あの……だからさ、俺今すごく距離近かったじゃん?あぁいうのでよしお君を不快にさせちゃったから……」

あの距離は今考えて見ればかなり引く距離だ。
逆に昔の俺にされたら絶対鳥肌ものだな。

それを俺は今ナチュラルによしお君に……

最高に俺キモ男じゃないか?!

「いや……だから…その…取り敢えず、ごめん!これからは気を付けるから!」


まぁ、あそこまで嫌がられるとは俺もちょっとショックだったけどな!


楓があまりにも勢いよく謝ってくる為、よしおは罪悪感に眉をしかめた。

事実、楓に対して苛立っていたわけでもなかったのだから。

「いや……そんな別に不快ってわけじゃ……っ?!」

そこまで言ってよしおは固まった。

突然黙りこくったよしおに楓は不思議そうによしおを見上げる。


「(不快じゃねぇっておかしいだろ?!俺!フツーあんだけ野郎が顔近づてくるなんて気持ちわりぃに決まってんじゃねーか!!……俺マジでどーなってんだよ……)」

別に不快ではなかった。

ただ激しい動悸と熱を持った自分の体にどう対応すればいいかわからなかっただけで、よしおは楓との距離感に“気持ち悪い”などという感情は少しも生まれなかった。


突然言葉を止めて固ったよしおに楓はどうするべきかと考えていた。


「(どうしちまったんだよ俺は!)」

「(どうしたんだよ、よしお君は……)」

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