蛇足
行くとこねぇなら
「お前、何見てんだ?」
昼休み、楓がボンヤリと求人誌を読み返していると突然頭上から低い声が降ってきた。
「よしお君」
楓が笑顔で声を発した主を見上げると、よしおはフイと顔を逸らした。
うん、今日も照れ屋なよしお君だ。
「ちょっとバイトを探してて…」
そう言って楓はよしおに求人誌を見せる。
ちなみに今は昼休みで、彦星は購買に昼食の買い出しに行っている。
もちろん楓は食費節約のために弁当だ。
しかも彦星の祖母の手作りである。
楓が朝、弁当を自分で作ろうとしていると、彦星の祖母が「ついでだからねぇ」と朝食の片手間で作ってくれたのだ。
本当に感謝してもしきれない程である。
本来ならば彦星の分も作ってあったのだが彦星はそれを「いらねー」の一言で片付けてしまった。
贅沢者め。
彦星は祖母の作る純和風の料理が口に合わないらしく、昼は決まってパンを買いにいくのだ。
だからこそ、楓はやっと一人になれたこの瞬間、サッサと求人誌を広げ職を探しを始めていたのだ。
「お前がバイトなんて意外だな」
「そうかな?」
「お前見た感じ親がバイトとか許さなさそうだから」
「………まぁ、うちはそこまで厳しくないから」
バイトする羽目になってるのも実は親のせいですからね。
「いいの見つかったか?」
そう言うとよしおはひょいと楓から求人誌を取り上げた。
うん、なんかやっぱいいなぁ。こういう普通の友達みたいな関係って。
楓が普通を噛み締めながらよしおを見上げると、それに気付いたよしおは眉をしかめた。
まぁ、顔がほのかに赤くなっているのが彼が怒っているわけではないという事を物語っているのだが。
「んだよ?」
「いや、何でもない」
楓がテレるよしおに微笑ましさを覚えながらそう答えるとよしおはサッと視線を求人誌に戻した。
「……にしてもあんまいいの載ってねぇな」
「うん。俺もあんまし選り好みとかしてるつもりはないんだけど……あんまりね」
楓がそう言って溜め息をつくと、よしおは少し考え込んで求人誌を楓に返した。
「あいつ……ほ…堀…田ん所はダメなのか?」
よしおくん……彦星の名前を呼ぶのさえまだ恐れているのか……
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