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蛇足

「楓がエロ本ねぇ」

「もういいだろ!蛭池君何か俺らに用事あったんじゃないの?!」

「よくなーい!俺は楓にエロ本読んで欲しくないの!」

またコイツは……! 彦星くん、キミちょっと口にガムテープ貼っておこーか!

楓が彦星の発言に殺意を感じ始めていると、扉の前に立っていた蛭池は何やら納得したような顔で彦星を見ていた。

一体なんだと言うのだろう。

すると、今まで彦星を見ていた蛭池が突然何か面白がるような声で楓に話しかけてきた。

「まぁ、楓。お前も男だからいろいろ我慢が効かん時もあんだろうが……エロ本は我慢してやれ」

「へ?」

「そーだ!楓はエロ本だめ!」

何だ?!
別に我慢なんかしてないからいいけど、何で蛭池君は彦星の今までと全く違う言動に突っ込まないんだ?!

気にする俺が細かいのか?!

彦星だから仕方ないなぁと、ここは納得する部分なのか?!


楓は明らかに納得できない様子で蛭池を見ていると、蛭池はフッと息をついた。

その姿はやはり高校生男子とは思えない程哀愁に満ちていた。

「楓よぉ、お前の言いたい事はわかる。だが、今は流せ。それがお前にとっては今は一番いい」

わけがわからない。

楓は未だに納得できずにいたが、余りにも目の前に立つ、この哀愁漂う男の言葉が説得力に満ちていたため仕方なく頷いた。

「……わかったよ」

「あぁ、今はここで納得しとけ。お前のためにもな」

意味深な蛭池の発言に楓は何やら嫌な予感をひしひしと感じた。


もう、これ以上突っ込むのはよそう。
多分ロクな事じゃないだろうから。

楓がそんな事を思いながら溜め息をつくと、突然隣に居た彦星がまたもや勢いよく楓に抱きついてきた。

「よし!じゃあもう楓はエロ本禁止な!絶対な!」

だから持ってねーって!

「わかった。わかったから……離せ!」

「あははは!」

笑ってごまかすな!

楓が彦星に抱きつかれながらジタバタしていると、蛭池はジッと二人を見つめていた。

そして再度納得したように顎に手を当てて頷く。

「蛭池君……なんか納得してるとこ悪いんだけどさ、彦星をどうにかして」

楓が必死で彦星を引き離そうとしながら言うと、蛭池は軽く「無理だな」と低い声で呟いた。

「あーそういや、言い忘れてたが………婆さんが飯だとよ」

そう言うや否や蛭池はサッと踵を返し楓の部屋から出て行った。

楓はそんな蛭池を未だ解かれない彦星からの拘束に、黙って見送るしかなかった。

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