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蛇足

振り向いて見ると、そこには笑顔の彦星の姿。

うん、本当にコイツは頭の中が毎日遊園地なんだろうな。

「じゃあ楓の顔見て話すな!」

「まぁ、そんなにひたすら見てこないでいいから」

あんまり見られると俺穴あいちゃうからねー。

「楓は何の本買ったの?エロ本?!」

「ちが………そう、エロ本」

楓はとっさに否定しようとしたが、少しだけ考えて苦い顔で肯定した。

ここで否定しては更に何を買ったのかと尋ねられかねない。

というか絶対聞いてくるに決まっている。

楓が求人誌を持っている事が彦星にバレれば、玉泉院に入居させられた時と同様、無理やり同じバイトを紹介されるに決まっている。

しかも逆に否定して何を買ったのかを隠そうとすれば、彦星は必ず拗ねてしまうだろう。


少し前に楓は彦星に言われた事があった。

『大親友に隠し事は無しだ!』

小学生かお前は。

楓は彦星に言われた時そう思ったが、彦星があまりにも真剣な目で言ってくるため否定する事ができなかった。

「(全く…こいつは)」

そういった経緯から 楓は面倒を避けるため「エロ本を買った」という事にしておく事にした。

すごく不本意ではあるが。

楓が苦い顔のままチラリと彦星を見ると、何故か彦星は眉をしかめて楓を見ている。

「どうかした?彦星」

「いやだ!」

「は?」

「いやだ!」

「何が?!」

「楓がエロ本読むなんてヤだ!」

いきなり何なんだ?

「………彦星がいつも俺にエロ本読めって言っていたんじゃないか」

そう、この彦星こそが俺にエロ本をやたらと推してくる張本人ではないか。

それを今更嫌だとはどういう了見だよ……全く。

まぁ、実際は買ってないけど。

「楓がエロ本読むなんてオレやだ!」

「だーかーら、なんで嫌なんだ?」

「ヤなもんはヤなんだ!!」


これは一体どうすりゃいいんだ?
彦星め……意味がわからんぞ。


楓が彦星の突然のぐずりに眉をハの字にして困っていると、コンコンと楓の部屋の戸を叩く音が響いた。

「はーい、どうぞ」

「おう、俺だ」

「あ、蛭池君どうしたの?」

「池ちゃん池ちゃん!!楓の奴エロ本なんか買ってんの!」

「彦星だまって!」

話がややこしくなるだろうが!

俺が慌てて彦星を制したが、そんな彦星の言葉に蛭池は「ほぉ」と、楓の方を見てきた。

サングラスで目は見えないが、多分その目は好奇に満ちているに違いない。

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