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蛇足

「ごめんごめん……ちょっと買いたいものがあってさ」

楓は正面を向いたまま素直に謝る。

できる事なら振り向いて、きちんと向かい合って会話したいのだが、彦星のきつく抱きついた体がそれを許さない。

「買うものって何だよ」

「ちょっと……本をね」

まぁ、無料求人誌だって一応本だし。

嘘はついてない。

「なんでオレも連れてってくれなかったんだよ……」

「いや、わざわざついてこさせるのも悪いと思ったんだよ、な?彦星だってわざわざ俺の買い物なんかに付き合うのなんか面倒だろ?」

楓が優しい声で言ってやると彦星は少しだけ楓の体に回していた腕を緩めた。

「オレは楓と一緒ならどこだって楽しー。だから一緒にいきたかった」

そう言って楓の首筋に顔をうずめる彦星に楓は溜め息をついた。


………おいおい、彦星よ。

お前は大親友ならどこまでもお供しちゃいたいのか。

まったく。

こんなベッタリな彦星と小学校から大親友やってる蛭池君は どんだけベッタリされてたのであろうか。

うーん、出会ったばっかの俺でさえこんなにベッタリなんだから、蛭池くんはもっとすごかったんだろうな。
今度聞いてみるか。

「よし、じゃあ今度から俺がどっか行く時は彦星も一緒に行こうな?」

だからいい加減離してくれ。

男二人が部屋で密着しあってるなんてムサい事この上ない。

楓が内心そんな事を思っていると、彦星は先程ゆるめた筈の腕に何故かまた力を込めた。

「うん!うん!うん!一緒に行く!楓と俺は大親友だからずっと一緒だ!」

「…………ははは」

なんかやり方間違ったみたいだ……俺。

「楓さー何の本買ったの?」

「ちょっと待った彦星!」

「へ?」

背中に抱きついたまま会話を続けようとする彦星に、楓は慌てて会話に待ったをかけた。

会話っつーのは……相手の目を見てやるもんだろうが!

こんな体制やりにくい事この上ないわ!

「彦星、話す前にこの腕離して」

「えー…」

「えーじゃない!」

このくっつき虫め!

「あのなぁ、彦星?俺は会話するならキチンと相手の目をみてしたいわけ。これじゃあ俺が彦星の顔見れないだろ?」

顔がそう言うと彦星はハッとしたように腕の力を抜いた。

「そうだ!オレも楓の顔が見れない!それはダメだ!」

そう言うとやっと彦星は楓から離れた。

全く、やっとこれで会話らしく会話ができるよ。

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