蛇足
運命共同体
TSUTAYA学園に通い続ける
そのためには今からバイトをして、まずは玉泉院の家賃分くらいは稼がなくてはならない。
わかっている。
わかっているのだが……
「どれもイマイチなんだよなぁ……」
選り好みをしている場合じゃない事は重々承知だ。
しかし、バイト先までの距離や職種を見ているとどうしても自分の中で選べる仕事に壁を作ってしまう。
いっその事、彦星のバイト先を紹介してもらおうか。
………いや、却下だ。
マジでそこだけは願い下げだ。
そうなってしまえば四六時中彦星と一緒な3年間を送ってしまう羽目になる。
リアルにそれはごめんこうむりたい。
「どうすっかなぁ」
楓が求人誌を眺めて頭を抱えて居ると突然騒音と共に自室の扉が開かれた。
楓は反射的に求人誌を引き出しの中に隠す。
「かーえーでー!!夜ご飯できたってー!」
そう言うなり楓の背中にダイブして来た彦星に楓は勢いよく机に頭をぶつけた。
「っつー!」
「あはは!楓ごめんごめん!」
全く反省の見えない声で彦星が謝ると、背中ごしに楓に強く抱きついてきた。
本人はあまり強く抱きついているつもりではないだろうが、彦星の抱き付いてくる力は相当強い。
ギュウギュウと体を締め付ける彦星の腕に、楓は軽く自分は圧死させられるんじゃないかとさえ思った。
コイツ毎回毎回……俺を絞め殺す気か?!
「彦星……離れろ」
「やだー!」
嫌だって……
夜ご飯だっていうのを伝えに来ただけだろうに、どうして彦星はこうもいちいち俺にくっつきたがるんだか………
「彦星ー俺おなかすいたなぁ。早くおばあちゃんのご飯が食べたいなぁ」
楓がそう言って彦星を体から引き離そうとすると、彦星は更に強く抱きついてきた。
おかしい。
いつもはここらへんで諦めて体を解放してくるのに。
楓がいつもと違う彦星にどうしたものかと思いあぐねていると、彦星はゆっくりと俺の肩に顎を置いた。
彦星の髪の毛が首筋にあたってくすぐったい。
「楓ー。今日何で一人で帰ったんだよー」
そういう事か。
彦星の拗ねたような声に楓は合点がいった。
楓は今日、昨日手に入れそこねた求人誌をゲットするため彦星に黙って先に帰ったのだ。
彦星はそれを拗ねているようだ。
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