蛇足
断ち切られた絆
俺、三木楓は現在かなり困っています。
バイトが見つかりません。
「………はぁ」
楓は溜め息をつくと今まで読んでいた求人誌を静かに閉じた。
急がなければ。
早くバイトを探さなければ。
気持ちばかりが焦って沢山載っている求人のどれも頭には入ってこない。
楓は求人誌の隣に置かれた通帳と白い封筒に目をやり頭をかかえた。
こんなモノ見たくなかった
この何の汚れもない真っ白な手紙こそが楓を悩ませる全ての元凶だった。
よしおと帰宅したその日、家に帰ると彦星の祖母から楓宛ての手紙が来ていると、白い封筒が手渡された。
差出人は母親。
よしおという常識人の友達が出来て急上昇していたテンションが、その手紙を見た瞬間急降下した。
TSUTAYA学園に入学し、家を追い出されるように玉泉院にころがりこんでからというもの、楓は家族とは一切連絡を取り合っていなかった。
唯一の家族との繋がりと言えば、毎月楓宛ての通帳に決まった金額が振り込まれているという事だけであった。
家族との繋がりが、たった一枚の通帳だけというのは、なんとも寂しい事実である。
しかし、楓はそれだけで充分だと自分に言い聞かせてきた。
このお金が振り込まれる限り、自分はまだあの両親から本気で見捨てられたわけではない、そう楓は信じていた。
……というか、そう信じるようにしていた。
そうでなくては、親から見捨てられたなんて事実、そうそう受け止めきれる事ではない。
しかしどうだろう。今月分の振り込みが先月と比べて2万ほど減っていた。
これはかなり由々しき事態である。
2万も引かれてしまっては学費と食費だけで仕送りは底をつきてしまう。
その場合、必然的に払えなくなるのが現在下宿している『玉泉院の家賃』である。
彦星のお婆さんの良心的な計らいから、そのお金はかなり安く設定されている事はわかる。
しかし……
しかしだ。
今の親からの仕送りではどうしてもそれは払えるような値段ではなかった。
あんなによくしている彦星の祖母にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
楓はそう思いバイトをする事を決心した。
しかし、そんな矢先に母親からの手紙。
不吉にも程がある。
軽く不幸の手紙と化した実母からの手紙に楓は深い溜め息をついた。
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