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蛇足

そうだ、コイツはこんな奴だった、楓は内心苦笑しながら思った。

全てにおいて小学生レベル。
そう、彦星は馬鹿なのだ。
始めはその馬鹿さにイライラする事もあった。
(いや…今でもたまにイライラはするが)

しかし、そんな彦星を楓はやはり嫌いではなかった。

家族から見捨てられているようなこんな現状を、そこまで悲観せずにいれるのは確かに彦星の影響が大きかった。

楓はこの彦星の馬鹿さに救われているのだ。


「彦星。お前は俺の友達第一号だろ?それに俺の大親友は彦星と蛭池君だけだよ。」

「……………!」

みるみるうちに彦星の不機嫌な顔が満面の笑みに変わっていく。

あぁ、単純。
もう尊敬に値するな、ここまでくると。


「おぅ!俺の大親友も楓と池ちゃんだけだ!」

「じゃあさ…、俺の友達は彦星の友達だろ?だって俺達大親友なんだからさ。」

楓は意識的に大親友は強調しながら言った。

「んーーー。うん。大親友の友達は友達だな!」

「そうだよ。大親友の友達ならその友達も、もちろん友達だな?」

「な!」

「じゃあ、よしお君は俺の友達だから、俺の大親友の彦星はよしお君とも友達だよな?」

「おぅ!楓の友達ならもちろん俺の友達だ!だって俺ら大親友だからな!」


よし、成功!
俺……スッゴイ頑張った。やり遂げた。
これで彦星もよしお君を見ても戦闘体制にはならないだろう。
良かった良かった。

楓がホッと胸を撫で下ろすと、隣で彦星が「そーいえば!」と声を上げてきた。

「楓は職員室に何か用があったのか!?」

「え、俺?俺は先生にバイ……」

バイトの許可証を貰いに

と言いかけて楓は口をつぐんだ。


バイトを捜している事がバレたら、きっと彦星は自分のバイト先を紹介しようとしてくるだろう。


というか一番最初に紹介しようとしてきたし。

楓にとって、それは避けたい事態であった。

いくら彦星と仲良くなったって、こんな男と学校でも私生活でも、果てはバイト先まで一緒とは考えるだけで疲労困憊だ。

ただでさえ暇さえあれば楓に金魚のフンの彦星。

「(俺だってたまには一人の空間が欲しいわ!)」

楓はそう思うと笑顔で、ちょっと用事があっただけ、と曖昧に返事を濁した。

「ふーん」

あ、その目は何か納得してないな。

全く、彦星。

人間関係ある程度の距離感が大切なんだぞ?


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