蛇足
2
失礼しました、とキチンと言って扉を閉める。
「かーえで!」
すると突然、後ろから結構な力で肩を思い切り押された。
咄嗟の事でその力に対応出来ず、さっき閉めた扉にそのまま身体を打ち付けてしまう。
「ぇえ楓っ?!だだ大丈夫か?!」
「…………」
痛い。
地味にかーなーり痛い。
お馴染みのバカ面(ヒドイ)を心配そうに歪ませ、押してきた張本人である彦星は何度も謝ってくる。
楓は一番激しく打ち付けた顎をさすりながら、大丈夫だからと彦星をなだめた。
「楓弱っちいのなー骨折ってない?」
「俺が弱いんじゃなくて彦星がおかしいんだと思うよ」
「はぁ?オレちょーフツウだよ、何言ってんの楓」
「……そうだね、此処じゃ普通なのかもしれない」
普通なのが普通じゃない。
常識人が非常識人。
「あ、」
「どうしたの彦星…」
突然立ち止まった彦星を振り返ると、そこにいつもの彦星は居なかった。
鋭い眼光で前方を睨むその姿はまるで修羅か羅刹。
普段の阿呆な彦星を見慣れているだけに、思わず楓はたじろいでしまう。
といっても、そんな彦星を見るのは初めてではない。
つい先日に、楓をパシろうとした不良共と対峙したときも、同様の顔だった。
「あっ……」
すると、彦星が睨み据えていた前方より声がした。
楓も視線を向ければ、そこにはあの不良共のひとりが彦星に睨まれ硬直している。
確か名前はよしおと言ったか。何番目に殴られた人物だったろう。
「……てか彦星、威嚇すんな」
「やだね」
一言そう答えると、彦星は一歩よしおに向かって歩を進めた。
よしおは怯えた顔で一歩後退。
あれから彦星には、ちゃんと事の真相を説明した。
友達ではなく、単にパシられようとして未遂に終わった事、それから「未遂」の意味も。
そしたら、これだ。
全く手加減なしの殺気攻撃。同じクラスなので当然毎日、彼らは彦星から沈黙の暴力を受け続けている。
ただ楓にあまりそういう面を見せたくないのか、彦星は楓が見ている前では攻撃しない。
教室では蛭池が居るし、殺気攻撃も恐らく彦星にしてみたら抑えてる方だ。
今剥きだしになっているのは、楓の側に自分しか居ないからなんだろう。
「彦星、俺は何ともなかったんだしさ。な?やめろって」
「楓はよくてもオレがだめ」
どうしよう、これじゃ今にも飛び掛かりそうだ。
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