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蛇足

失礼しました、とキチンと言って扉を閉める。

「かーえで!」

すると突然、後ろから結構な力で肩を思い切り押された。
咄嗟の事でその力に対応出来ず、さっき閉めた扉にそのまま身体を打ち付けてしまう。

「ぇえ楓っ?!だだ大丈夫か?!」

「…………」

痛い。

地味にかーなーり痛い。

お馴染みのバカ面(ヒドイ)を心配そうに歪ませ、押してきた張本人である彦星は何度も謝ってくる。
楓は一番激しく打ち付けた顎をさすりながら、大丈夫だからと彦星をなだめた。

「楓弱っちいのなー骨折ってない?」

「俺が弱いんじゃなくて彦星がおかしいんだと思うよ」

「はぁ?オレちょーフツウだよ、何言ってんの楓」

「……そうだね、此処じゃ普通なのかもしれない」

普通なのが普通じゃない。
常識人が非常識人。

「あ、」

「どうしたの彦星…」

突然立ち止まった彦星を振り返ると、そこにいつもの彦星は居なかった。

鋭い眼光で前方を睨むその姿はまるで修羅か羅刹。

普段の阿呆な彦星を見慣れているだけに、思わず楓はたじろいでしまう。
といっても、そんな彦星を見るのは初めてではない。

つい先日に、楓をパシろうとした不良共と対峙したときも、同様の顔だった。

「あっ……」

すると、彦星が睨み据えていた前方より声がした。

楓も視線を向ければ、そこにはあの不良共のひとりが彦星に睨まれ硬直している。
確か名前はよしおと言ったか。何番目に殴られた人物だったろう。

「……てか彦星、威嚇すんな」

「やだね」

一言そう答えると、彦星は一歩よしおに向かって歩を進めた。
よしおは怯えた顔で一歩後退。


あれから彦星には、ちゃんと事の真相を説明した。
友達ではなく、単にパシられようとして未遂に終わった事、それから「未遂」の意味も。

そしたら、これだ。

全く手加減なしの殺気攻撃。同じクラスなので当然毎日、彼らは彦星から沈黙の暴力を受け続けている。

ただ楓にあまりそういう面を見せたくないのか、彦星は楓が見ている前では攻撃しない。
教室では蛭池が居るし、殺気攻撃も恐らく彦星にしてみたら抑えてる方だ。

今剥きだしになっているのは、楓の側に自分しか居ないからなんだろう。

「彦星、俺は何ともなかったんだしさ。な?やめろって」

「楓はよくてもオレがだめ」

どうしよう、これじゃ今にも飛び掛かりそうだ。

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