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蛇足

「あー、すまねぇ楓。あと一つ重要なモン言い忘れてたぜ。」

「もぅ、まだ何かあるの?」

楓はウンザリして振り返った。

「あぁ、かなりこれは重要だ。俺の中じゃこれを外したらもうありえねーってぐらい重要な「いいから早く言ってよ。」

ちょっと…いや、かなり蛭池の前置きの多さに楓はイラついていた。
ただでさえ荷物の多い買い物に加え、お供は彦星ときた。
イライラしないわけなかった。

「まぁ、そうカリカリすんな。カルシウムが足りてねぇぞ。楓。」

「…………さぁ、彦星行こうか。」

そう言うと楓は蛭池の5000円と買い物リストを丁重に教壇の上に置いた。
そして、もう何を言っても振り替えるものか、という決意を固め教室の扉に手をかけた。

「イチゴミルク」

「へ?」

楓の決意は5秒ももたず崩れ落ちた。

「だからイチゴミルクだ。よろしくたのむぜ。楓。」

「イチゴ……ミ「イチゴミルクってどーゆー事っすか!蛭池さん!」


「まさか、蛭池さんが飲まれるんすか?!」

「嘘でしょう?!蛭池さん!」

蛭池がイチゴミルク発言をした途端、教室に居る者全員が蛭池に食ってかかった。

仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。

蛭池はこのTSUTAYA高校の1年、いや、その支持層は上級生に及ぶ程はんぱない人気振りなのである。

しかも、その容姿から渋いだのカッコイイだのもてはやされている蛭池だ。

その蛭池がイチゴミルクとは、さすがにクラスの蛭池信者共も黙ってはいない。
一気に蛭池の回りにはひとだかりができていた。


「蛭池さんはあんな甘ったるい物をお好みになされるんですか?!」

「まさか、イチゴミルクを飲まないと蛭池さんどーにかなっちまう病気とかじゃないんでしましょうか?!」

「まさか本気でイチゴミルクをおたしなみになられるんすか?!」


混乱の為か、それとも元々馬鹿なのか、全く使い方の間違った敬語が教室中に飛び交う愉快な状況となった。

「まぁ、おめぇら落ち着け。俺がイチゴミルクを飲むのには深い訳があんだよ。」

「………ただ好きなだけじゃ?」

楓はツッコンだがもう教室中の空気は止められなかった。

「理由って……理由ってなんすか、蛭池さん!」

「俺達には言えない事っすか?!」

「教えて下さい蛭池さん!」

そんな馬鹿騒ぎの中心で蛭池は神妙か面持ちでゆっくりと回りを見渡した。


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