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蛇足

「解約って…」

尻のポケットに突っ込んでいた携帯を取り出して開く。
画面左上にある表示は『圏外』。本当に解約されたらしい。

「なぁ、何で解約されてんの?」

「俺が聞きたいよ」

まぁ別に、あって便利だがなくて不便というほど重宝していた訳でもないので構わないが。
…でも、何つーかこう

「なんかヒデーのな!!楓んちの親って」

「………」

いや、携帯だけで済んで良かったじゃないか。
学校の授業料まで払わないなんてなったらそれこそ捨てられたようなモンになるし。
それに携帯なんて滅多に使わないし。

期待を裏切った楓に、余計な金を使いたくないのは、きっと当然だ。

「よし、じゃあバイトだな!!」

「………え」

「ちょうど俺のバイト先、人足りないらしいし!!そうと決まりゃ店長に電話して」

「ちょ、待て待て!!」

デジャヴ。

あぁそうだ。

ダメだ、このままだと玉泉院の二の舞になる。

これ以上コイツに体調を悪くさせられてたまるか。

楓は、段ボールの山に埋もれるように座っている彦星へタックルをかます如く突っ込み、左手に握られた携帯を取り上げた。

「んなっ、何すんだよ!!」
「しなくていいんだよバイトなんか」

「何で!?」

「俺には必要ないんだって。携帯なんて使わないし」

「でもさ」

「いらないから。気持ちだけで充分だよ」

ありがとう、と楓が言うと彦星は黙り込んでしまった。

あんなに声張り上げるキャラなのに、そんな大人しくされると逆に怖い。
落ち込ませてしまったか。

「ひこぼ…」

「オレさ」

「え?」

「オレ!!ありがとうなんて言われたの初めてだ!!」

「は…?」

突然何を言い出すかと思えば。
さっきのは落ち込んでいたんじゃなく喜びを噛み締めていたのか。

というか何だ。
ありがとうなんて誰だって言うだろうに。

お前はどんだけ人に感謝される事のない人生を歩んできたんだよ……。

「楓!!」

「な、なに」

「オレらずーっと友達な!!いや大親友な!!」

「……はは…は………うん」

笑って、そんなの一生有り得ない、とか言ってやりたかったが、そんな喜びに満ち溢れた混じり気のない子供みたいな笑顔で言われたら、否定なんか出来やしなかった。

ありがとうの一言で、馬鹿みたいに嬉しいなんて言う彼に、初めて楓は好感を持てたかもしれない。
学校も玉泉院も、悪い事ばかりじゃないかもしれないなんて、実に愚かな事を考えてしまう程。


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