蛇足
やきもち
「おい、か……楓」
教室で楓が彦星に勉強を教えていると、突然楓の頭上から楓を呼ぶ声が聞こえた。
その、若干どもり気味の低い声に楓は内心小さく笑みを浮かべると、サッと声の主の居る方へと顔を上げた。
顔を上げた先には楓の予想した通り、なにやらバツの悪そうな顔で立つよしおの姿があった。
昨日あんな事があった後楓は、よしおはと何も会話をする事なく別れてしまった。
なにせ、あの後どんなに楓がよしおに話しかけてもよしおは答える事はなく、終始赤面したまま、ただ、黙々と自分の仕事をこなすのみだったのだ。
しかし、今日はどうやらそんな赤面状態から脱してきちんと会話ができるまでに回復している。
よかった。
楓は自ら声をかけてきたよしおに内心ほっとすると、よしおに向かって笑顔であいさつをした。
「よしお君。おはよう」
「……おう」
楓の挨拶に素っ気なく返事をするよしおはどこかソワソワしていて落ち着きがない。
素っ気ないのはいつもの事だが。
楓がどうしたのだろうかと、全く目を合わせてこないよしおに首を傾げていると、前に座っていた彦星が突然楓の胸ぐらを掴んで引っ張ってきた。
そのせいで、楓の体は容赦なく彦星の方へと引っ張り込まれ、今、楓の目の前には不機嫌そうな表情を浮かべる彦星の顔がアップで映し出されている。
あぁ、本当にルックスだけは最高だな。
楓はどアップで目の前にある女の子ならコロリと落ちてしまいそうな顔を見ながら、ぼんやりとそんな事を考えた。
しかし、楓のそんなぼんやりとした思考は、しだいに強くなっていく彦星の拘束によって遮られていった。
本人は余り力を入れているつもりはないようだが、されている方は物凄く苦しい。
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