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蛇足
堪忍袋の緒が切れた
よしおが店内に足を踏み入れた瞬間。
不意によしおの肩に衝撃が走った。

よしおがぶつかった相手に目を向けると、そこに居たのは、なにやら自分と同じ背丈ほどのスーツを着た若い男であった。

「あ゛ぁ?」

とっさにいつもの調子で相手を睨みつける。

すると、ぶつかってきた相手はヒッと短い悲鳴を上げ足早によしおの脇を通り、そのまま店から出て行ってしまった。

なんだったんだ、よしおが眉を潜め男の出て行ったドアを見つめていると、店の奥から聞きなれた音のズレた女の声が聞こえてきた。

「もう!よしちゃん!!なんでいつも先生を困らせるようなことばっかり言うの?」


よしちゃん

そう聞こえた言葉によしおは、今しがた潜めていた眉を更に寄せると母親の声のする方へと急いだ。

--------------

楓はただ茫然と“よしちゃん”と呼ばれる少年を見つめた。

突然出てきたと思いきや、何様と言わんばかりのこの尊大な態度。

年上を年上とも思わぬこの態度は、声といい顔の造りといい何かと誰かを彷彿とさせる。

「(よ……よしお君の小さいバージョンだ)」

楓は未だに尻もちをついたまま、母親に諌められている少年を前に、自らの同級生を思い出していた。

状況から察するにこの、よしちゃんと呼ばれる少年はよしおの弟かなにかであろう。

「(よし君と……よしちゃん……やっぱり、よしってところはリンクさせるんだ)」

楓が少年をじっと見ていると、今まで母親の方を見ていた少年が突然楓に目を向けてきた。

「ねぇ……、あんたさぁ、いつまでそうやって尻もちついてんの?こっち見てもさぁ、俺、あんたの事助けたりしないよ?目障りだからさっさと立ってくんない?」

「え……あ、うん」

突然降り注がれた槍のような言葉の雨に楓は反論もできずに素直に立ち上がった。

そんな楓に少年は目を細めると、なにやら下らないものでも見るような目つきで楓を見つめる。

「……その制服……蔦谷……だよね?もしかしてあんたアイツの友達?」

「あ……、アイツ?」

「そ、あいつ。今あんたの後ろでこっちをすんごい睨みつけてる、アイツ」

そう言って少年は口元に薄く笑みを浮かべると楓の背後を指差した。

そんな少年の動作に促されるように楓が、自分の後ろを振り返ると、そこには


「おい、よしき、てめぇあんまし調子乗ってっとマジでしばき倒すぞ」

「……よしお君」

物凄い形相でこちら、正しくは少年を睨みつける、よしおの姿が在った。

「はっ、あんたさぁ。いっつもそうやって凄めば何とかなると思ってんだろ?そういう考え方、やめといた方がいいよ?社会に出たらそんなの通用しないから」

「てめぇ……マジで殴られなきゃわかんねぇみてぇだな」

「ちょっ……よし君!よしちゃんも!二人とも喧嘩は止めて!!」

よしおの前に立ったよしえは慌てて、よしおの前進を防いだ。
そうでもしなければ、よしおはすぐにでもよしきに殴りかっていただろう。

母親に止められたよしおに、よしきは挑発するようによしおに向かって鼻で笑うと、またもや楓に目を向けた。

「つーか、あんたが此処に学校の奴連れてくるなんて珍しいじゃん。なにコイツ、あんたのパシリ?全然役に立たなさそうだね。なんかトロイし。見ててイラっとするタイプかな」

よしきの余りの失礼な言葉の数々に楓が目を瞬かせていると、突然楓の後ろからキャッという短い悲鳴が店内に響いた。

その声に楓が慌てて後ろを振り返ると、そこにはよしえを脇に突き飛ばしてズンズンとこちらに近づいてくるよしおの姿があった。

「よ、よしお君!!?」

楓は本能的にこのままではよしきの身の安全がヤバいと判断すると、とっさによしおの前に立ちはだかった。

「よしお君、だめだって!!あの子、よしお君の弟だろ!?殴るとか絶対だめだよ!」

「どけっ!!今回だけはぜってーあいつぶん殴らなきゃ気がすまねぇんだよ!!」

楓の説得に全く耳を貸そうとしないよしおは、楓を無視してよしきのもとへと更に歩を進める。

あと数歩でよしおがよしきの手の届く範囲に到達しようとした時だった。

「よしお君!!」

楓は背後からよしおの体にガバリと抱きついた。

その瞬間、今まで全く周りの声に耳を傾けようとしなかった、よしおの動きがピタリと止まった。

「よしお君ダメだよ!!お兄ちゃんが弟殴るなんて!年上は年下を守ってあげなきゃダメなんだ!!」

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あきゅろす。
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