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蛇足
自己満足
「っし、これで最後か」

よしおは店の前にあった鉢植えや花の入ったバケツを一カ所へと集めると、背筋を伸ばして息を吐いた。

顔を上げてぼんやりと空を眺めると、そこには夕日によって真っ赤に染め上げられた空が広がっている。


外は一段落ついた。
次は中か。

よしおがそう思い、ふと運び終えた鉢植えに目をやる。

その瞬間よしおは先程まで一緒に外に居た楓の姿を思い出し、自然とその顔に笑みを浮かべた。

「(……力ねぇ癖に無理しやがって)」

フラフラしながらも一生懸命外に並べられた鉢植えを移動させていた楓。

その姿によしおは自分の中に生まれた、どうしようもなく熱い感情に自らの顔が火照りだすのを感じた。

「(………あぁ、ヤバすぎる)」

楓を好きだと自覚してからの己の感情の変化にはハッキリ言ってよしお自身ついていけなかった。

楓の一挙手一投足全てに反応している自分。

楓を見る度に早まる鼓動。

自然と楓を追う自らの視線。


そして何より

「(……何であんなに可愛いんだ)」

本気でそう思っている自分自身。


これはもう、一種の病気と言ってよかった。

好きだと自覚する前は、あまりの感情の変化に戸惑うばかりで、楓に面と向かって相対する事ができなかった。

だが自覚した後、今度は、好きだという気持ちが大きすぎて楓に向き合うのが難しくなった。

その為よしおの最近の悩みは専ら“どうすれば楓に普通に接する事ができるのか”というものだった。

楓が自分に視線を向けてくれるのが嬉しくて。

言葉を掛けてくれるのが嬉しくて。

一緒に居る事ができる事がどうしようもなく幸せで。

だが、それと同時にそんな自分の感情を楓に悟られるのが物凄く恥ずかしくて。

そうなると、よしおはそれを隠すように、つい楓にはキツい口調になってしまうのだ。

本当は普通に接したいのに。

優しくしたいのに。

どうにもならない自分の感情に、よしおは項垂れると深くため息をついた。

「(これじゃあ前と全く変わってねぇじゃねぇーか)」


そう、よしおは気持ちの面では劇的に変わったものの、結局楓に対する態度は自覚する前と全く変わっていなかった。

「(……いや、けどさっきは意外に優しくできた気がする)」

よしおは項垂れていた頭を起こすと、先程の楓に対する自分の態度を思い、うんうんと頷いた。

重そうに荷物を運んでいた楓に声をかけたよしお。

此処はいいから中をやって来いといった自分の行為は間違ってはいなかった筈だ。


「(……あれは、なかなかよかったよな)」


よしおは自分の言葉で楓の男のプライドを傷付けた事など全く気付かずに、満足げな表情を浮かべると、店の入り口に足を進めた。

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あきゅろす。
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