蛇足
無礼者
「出てけよ。あんたじゃオレに何も教えられない」
突然部屋に店に響いたその怒声に楓はびくりと体を揺らした。
隣ではよしおの母、よしえが、あら?というのんびりした声で首をかしげている。
フラワーショップくるるん。
よしおの家が経営する花屋であり、楓が現在バイトとして働いている場所でもある。
蔦谷学園から徒歩約20分の所にある、前を通れば誰もが立ち止まる、ファンシーをそのまま形にしたような花屋だ。
そして現在は夕方の6時30分。
閉店間際の閑散とした店内で、楓はそこらに置かれている花の整理をよしえとやっているところだ。
ちなみに現在よしおは、店の外にある大きな鉢などを店内に運んでいる最中である。
最初は楓もそちらを手伝おうとしたのだが、あまりの鉢の重さに楓がフラフラしていると楓はよしおによって無理やり店内へと押しやられた。
「お前の貧相な腕じゃ無理だ。お前は中でババァを手伝って来い」
そうぶっきらぼうによしおに言われ、軽く男としてのプライドに傷を負った楓はため息をつきながら小さな鉢やバケツをせっせと運んでいた。
そんな時、冒頭の怒声が店内へと響き渡ったのである。
「あんたさぁ、こんだけのレベルでこの俺の家庭教師しようなんて、相当だよ?もう一回小学校からやり直した方がいいんじゃない!?」
初めて聞くその声に、楓はどことなくよしおと似ているような気がして、何やらおかしな気分になった。
楓が声のする方、つまり店と自宅を結ぶ入口の戸を目をしばたかせて見ていると、突然その扉がガタンといううるさい音を響かせて開け放たれた。
「帰れよ」
「っー!」
楓が目を見開いて開け放たれた扉を見ていると、そこには学ランに身を包んだ幼さを残す少年と、その少年に突き飛ばされて地面に尻もちをつく若い男性の姿があった。
どうやら、少年に突き飛ばされてしまったらしい。
「大丈夫ですか!?」
倒れこんだ男性に楓がとっさに駆け寄ると、男性を突き飛ばした少年はフンと鼻をならして男性を見下ろした。
それはとてもじゃないが年上に対する態度ではなく、むしろその目は相手を心底嘲るような目であった。
そんな相手の目に楓は小さく息をのむ。
「大丈夫じゃないよね?あんたの頭。大学までいってまともに中学生にすら勉強教えらんないんだから」
「ちょっと!君!」
少年の余りにも尊大な態度に楓が声を上げると、少年はふいと楓から顔をそらした。
まるで楓など最初からそこに居ないとでもいうような態度に楓は困惑するしかなかった。
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