蛇足
3
「池ちゃん、コイツ今日から此処に住む楓っつーの。オレのダチ!!」
「そうか…俺ァ蛭池ってんだ。よろしくな楓」
「よ、よろしく…」
オールバック、グラサンに顎ヒゲ、柄シャツ…これが未成年ていうんだから行く末恐ろしい。
絶対ドスとかチャカとか持ってそうなのに。
「ヒコ坊よ…その池ちゃんてなァいい加減やめねぇか」
「池ちゃんは池ちゃんだろー。漢字ムツカシんだよヒルイケって、カタクルシイしさ」
「ったく、ヒコ坊にゃ敵わねぇなぁ…」
「………」
ダメだ。
色々突っ込みたいのに恐くて出来ない。
恐らく蛭池は同い年なのだろうが、彦星をヒコ坊と呼ぶ辺りもう何か、次元が違う。
ナチュラルに、それでいて全てに違和感がない。年齢を除いて。
「池ちゃんとはオナショーオナチューでさー、イワユル幼なじみってヤツなんだよな」
「へ、へぇ…」
是非とも小学時代の彼が見たいものだが。
と、突然某アイドルの着うたが唐突に鳴り響いた。
楓も何度か耳にしたことはある、一般人から見たら少々痛いと称されるアイドルの曲だ。
「あぁワリィ…俺だ。じゃあまたな、ヒコ坊、楓」
アンタかよ。
部屋に戻る背中を見つめ、ドアが閉められても楓はジッと動けずに居た。
衝撃が抜けない。
まずあの蛭池という男自体に驚いた。
年少というんだから多少ワルは想像していた…いや、仮にも全国で有名な不良高校に通っているのだ、見た目に関してはもう驚く事はないと思っていた。
あんなの、哀○翔が現役高校生だっていうくらい、年齢詐称にも限度があると言いたい。
というか自分の部屋に居てサングラスをしているのか。常備なのか、キャラ付けなのか。
それにあの喋り方。
絶対おかしい。
明らかに40のおっさんの哀愁漂う物腰に間合いに、またそれががっつりハマッてる所とか絶対変だ。
もうそれを考える自分が変なんだろうかとさえ思う。
とりあえずここまではいいとしよう。
アイドルの、しかも着うたを普通設定するだろうか。
自分でも意識してるからグラサンしたりヒゲはやしたり柄シャツ着てるんだろうに、どうしてそこでキャラをブチ壊すのか。
しかもよりによってあんな、所謂秋葉系アイドルの曲を。
ダメだ、逃避したい。
「よーし楓。荷物出すぞー」
一瞬にして、楓の中の彦星のキャラが薄れてしまった。
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