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蛇足

…騙しは余計か。幸せに生きてやる。うん、これでいい。

「何してんの楓」

運ぶよ、と、いつの間にか楓の荷物を軽々持ち上げていた彦星が、さっさと中へ入ってった。

「じゃあこれね、楓君の部屋の鍵。スペアないから失くさないようにねぇ」

「あ、どーも…」

彦星のお祖母さんはとても感じのいい人だ。
こうなると彼の親がどんな人なのか…全く想像が付かないけれど。






「楓の部屋はオレの部屋の隣なー!夜一人じゃ寝れないなら来ていいぜ!!」

「ありがとう。でもないから」

荷物を運び終わり、広々とした部屋の真ん中で二人して寝転がる。
下宿所らしく畳の部屋は、フローリング育ちの楓にはちょっと嬉しい。
ひやりとした感触と独特のニオイは、変にモヤモヤしていた事を忘れさせてくれた。

「っと、そーだっ!!」

突然彦星は起き上がると、半分夢心地の楓の腕を無理矢理引っ張った。

「いてててて!!彦星痛い!!」

「いーから起きろって。お前に紹介したい人が居んの!!」

「はぁ…?」

まさか、登場するのか彦星父&母?
って何でこんなに彦星の両親に会いたがってるんだろう。

「最近年少から出て来た奴でさ、今日ウチに入ってきたんだ」

「年少…って少年院の事?」

「は?年少は年少だろ。ショウネンインて何だよ」

「………いや。分かったけど、別に紹介してもらわなくてもいいよ」

危険な奴は学校のバカ共だけで充分だ。

せめて此処では平穏に暮らしたいのだから。
いや、その危険な奴の祖母がやってる下宿所では平穏もクソもないのだろうか。

「いーからいーから。絶対気ィ合うよお前ら」

「良くないから。俺気合わない自信あるから。だから引っ張らないでくれ。…ちょっ、本当ヤメてって。てか何、力強過ぎじゃね?痛い痛い痛い離せマジいらねーから離してくださいお願いだから」

「池ちゃーん」

呼ぶな、と言い掛けたところで、楓の部屋の右隣の部屋(彦星は左隣)のドアが開いた。

あぁ…何でお隣りなの。

「何だヒコ坊…あぁん?誰だそりゃ」

出てきた池ちゃん(仮称)は、けだるそうに楓と彦星を見下ろしてきた。

…年少?

刑務所じゃなくて?

そんな感想を抱いてしまう程、池ちゃんと呼ばれた彼は結構お年を召されてるような風貌だった。


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