関係転換学各論
その1:始まった関係、終わった関係
(1:始まった関係、終わった関係)
高校生活も終盤に差し掛かってきた3年の2学期。
ヤツはやって来た。
「池田 一(いけだ はじめ)です。父の仕事の都合でこちらに越してきました」
ヤツは少し低めの、しかしよく通る声でそう言うと俺達に向かって深々とお辞儀をした。
その瞬間、女子の目は一気に俺からヤツへとシフトした。
まさに、瞬間移動の如く。
ヤツは簡単に言えば“違った”。
全然、俺達みたいな一般人とは住む世界が違う。
俺はヤツを見た瞬間、直感的にそう思った。
色素が薄いのか、透き通るような肌に、切れ長の目、薄く形の良い唇には人のよさそうな笑みを湛え、しかしかといって貧弱なわけではなく、制服の袖から見える腕は引き締まった筋肉が見えていた。
ヤツはモデルか何かのような完成された“美”を持つ男だった。
そう、俺のように捜せばどこにでも居る“ちょっとカッコイイ男の子”とは最早、次元が違ったわけだ。
そして、クラスの女子の目は半ば入りかけていた受験生モードから一転して、あの男を我が者にしようとゆう“女”の目へと劇的に変化した。
俺はその変化を間近に感じ、他の男子同様、背筋を凍らせたのだった。
「卒業までの少しの間ですが」
その日から、このどこにでもある偏差値そこそこの進学校のヒーローは、この俺、坂本 善(さかもと よし)から、池田 一へと移り変わった。
一極独裁だった政権が、高校生活の最終章にして突然交代したのだ。
世の中の移り変わりは激しいと言うが、それはこんな小さな公立高校も例外ではなかったらしい。
「どうぞ、よろしくお願いします」
かくして、この瞬間、俺とヤツの妙な対立関係が始まったのだった。
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