関係転換学各論
その8:*****
「善さ、転校初日からずっと一の事気にしてたでしょ?転校生だ、凄いなーカッコイイなー、話しかけてみたいなーって小学生みたいな事思ってたでしょ?」
「……思ってない」
お見事、思ってました。
俺はガッツリ栞に気持ちを見透かされてしまっていたが、それを肯定するのも癪だったので、栞から目を逸らして首を振った。
その言い方が、自分でどこかガキっぽいと思ってしまって、恥ずかしい気分に拍車をかけたのは自業自得だろうか。
「思ってる。あんた、ずーっと一の事見てたしね。でも女子がいつも周り固めてるから話しかけられなかったのよねぇ?」
「……………栞は……栞はいいのかよ」
「何が?」
「せっかく、アイツ……池田と仲良くなってあんなにスゲェのが彼氏にできるかもしれなかった時に、こんな休んでゲームなんかしてて」
俺は自分の耳が徐々に熱を持つのを誤魔化す様に、話題を変えた。
何だよ、俺、そんなに栞にバレるくらいアイツの事見てたのか。
……やらかした。
恥ずかしいったらない。
「別に。私、一と付き合いたいとか思ってないし」
「……は?」
予想外の栞の言葉に、俺は思わず上ずった声を上げてしまった。
だって、そうだろう。
あの、ミーハーな栞が、アイツと付き合う事を目的とせず、ただ単純に池田にあんなに親しくする筈ない。
ましてや弁当など、あり得ない、あり得ない。
「…………ムカつく目ねぇ」
そんな俺の思考が伝わったのだろう。
栞はどこか心外そうな表情で俺を見てくると、手に持って居たプリントをクシャリと音がする位力を入れた。
プリントはもうグシャグシャだ。
「ばっか。だいたいねぇ、もうすぐ高校生活も終わるってのに、今さら彼氏なんか作ってどうすんのよ。そんな足枷作ったら、新しいとこ行って、もっと良い男見つけた時に、素早く次の行動に移れないでしょうが」
「………は、はぁ」
「私もあんたと同じ。転校生だし、結構カッコ良かったし、最近つまんなかったし、刺激欲しかったし、ちょーっと話しかけたいなって思ってただけ。今はゲームって刺激があるし、十分ね」
「……そっか」
俺はそんなつもりで話しかけたかったわけじゃない。
お前みたいなハイエナ女と一緒にすんな。
………なんて。
上下ジャージで瓶底メガネを装備した寝不足の勇者に、そんなツッコミを入れられるわけもなく。
俺はやっぱこれが栞だよなぁと、女子に囲まれた時とはまた違った怖さを感じていた。
「向こうも、そんなにこっちと仲良くなりたそうでもなかったしね。別にもういいのよ」
「ふーん」
そう言った栞の言葉に、俺は瞬間的にアイツの栞やそのほかの女子へ見せていた、あの困ったような愛想笑いを思い出した。
やっぱり、栞は気付いていたようだ。
あれがアイツの本気の表情ではないと言う事に。
「でもさ、一がね。唯一、自分から話に乗ってきてくれた話題もあったんだよ」
「へぇ、どんな?」
へぇ。
そっか、アイツも何か特別な話題だと話に乗ってくれたりするんだ。
「どんな話題だと思う?」
「わかんね」
俺が本気で何なのか分からず考え込んでいると、栞は耐えきれないようにクツクツと口を押さえて笑い始めた。
何だ、栞のヤツ。
「おい、栞。なんだよ」
「あんたの……善の話」
「………は?」
「あのね、私が善の話をする時だけは、けっこう盛り上がってくれたんだー」
「……っは!?」
何だ、それ?
つか、何だ栞。
お前は俺の何について話したんだ。
「おい、一応聞くが、一体、俺の何を話したんだ?」
「あはっ、丁度いいし、一本人に聞いてみれば?」
「本人って何だよ!」
「本人は本人よ。さっき、さっき私のとこにメール来てたし、焦ってもうすぐコッチに来るんじゃないかなぁ」
「ちょっ!栞!お前、何をどうしたんだよ!?」
俺が一人焦っていると、栞はグシャグシャになった進路調査のプリントを持ったまま、俺にむかって背中を向けた。
俺の質問に答えるつもりは毛頭ないらしい。
「おいっ!栞!」
「っあ、そうだ」
そして、思い出したようにもう一度俺の方を振り返ると楽しそうに笑いながら俺に向かって口を開いた。
「一もね、あんたと話しがしてみたいって、ずっと言ってたよ。良かったねぇ。両思いで。この際だから、二人仲良くなってみれば?」
「はぁ?」
俺が本格的にわけがわからないと栞の背中に手を伸ばした時だった。
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