関係転換学各論
その8:*****
「お前、ちょっと寝た方がいいぞ。スゲェ顔」
「いいわよ。1週間は休む予定だから。それまでに全クリしてみせるから」
「………うーわ」
どこか自信に満ちた栞の顔に、俺はうんざりすると、少しだけ肌寒くなってきた夕刻に肩を震わせた。
「メール見たか。これ、先生に届けるように言われたから、持ってきた。彼氏が持ってけって」
「あら。まーだ先生知らないんだ。私らの事。私、けっこう最近まで一にべったりだったつもりだったんだけどなぁ」
一。
そう、当たり前のように口にする栞に、俺は眉間に皺が寄るのを抑えられなかった。
そんな俺の表情を、栞はどう受け取ったのか、ニヤリとどこか魔女のような不気味な笑顔をつくると、俺からプリントを受け取った。
「なに、嫉妬?善もそうゆう、ヤキモチとか焼く人だったの?付き合ってる時は大して焼いてくれなかったのに」
「バカ言え……こっちはお前のせいで女子に呼び出されて怖かった」
「あっは!やっぱりそうなった?あー、絶対私か善に行くだろうなぁとは思ってたんだー!」
そう言ってカラカラ笑う栞に、俺はどこか気持ちが沸々とするのを抑えられなかった。
いや、栞があぁなって欲しかったわけじゃないが、こんな風に軽く言われると……どうにも、こうにも……。
一言で言えばすっげームカつく!
「すっげー、怖かったんだからな!俺が池田を苛めてるみたいに言われてさ!あれ、絶対お前への嫉妬を俺にぶつけてるぞ!めちゃ怖かったぞマジで!」
俺はあの時の状況を思い出し、また小さく肩を震わせた。
それは、寒さからくるものでは一切ない。
「ごめん、ごめーん。多分、私にどうこう言うのは女のプライドが許さなかったのね。あからさまに嫉妬してますってゆうの、なんだか格好悪いもん」
「そのプライドが俺に猛威をふるった。怖かった」
「あっは。見たかったそれー」
そう言って、また笑う栞に、俺はもう何も言わなかった。
言っても栞には(笑)程度の気分しか与えられない事は、もう十分わかったし。
俺はもう用は済んだと、栞に背を向けようとすると、栞はその前に、今までとは少しだけ違った真面目な声で俺に向かって声をかけてきた。
「一、どうしてる?他の女子がべったり?」
「まぁ……お前の予想通りだよ。栞が居なくなってから、これはチャンスと女子共は皆であいつに群がってる。ハイエナみたいだ」
「ねぇ、善は?」
「は?」
「だーから、善は?一と何か話したりした?」
突然、話しの方向が俺に向いた事に、俺は一瞬意味がわからず、無言のまま栞を見ていた。
そんな俺を、栞はどこかお見通しというような、面白いものでも見つけたような目で見つめていた。
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