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関係転換学各論
その6:*****

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栞が居ないとなると、ヤツは休み時間、どうするのだろう。
もしかして、一人になったりしないだろうか。


そんな俺の心配は杞憂に終わった。


「一君、ここがわかんないんだけど」
「あーっ、私も私も!教えて欲しいとこがあるの!」
「ずるい!私もー!」


栞が居ないからと言って、カリスマの代名詞の周りからは人が居なくなるわけがなかった。なんたってカリスマなのだから。

逆に、栞が居ない事によって転校初日の女子鉄壁バリアーが見事復活して、俺は更にヤツに近付けなくなってしまった。
女子は、昨日、そして今朝、俺に向けてきたような般若のような恐ろしい目を、一体どこに収納したんですかと問いただしたくなるくらい奇麗さっぱり表面から消し去ると、互いにキャイキャイと自分のノートを持ってアイツの席へと駆け寄っていた。

蛇足だが、ヤツは転校してすぐ行われた中間でいきなり学年3位を獲得する程の頭の良さを誇っていた。
その為、女子は受験前と言う忌々しい称号をフル活用して、栞の居ない隙をつきせっせとヤツの元に通うのだ。

まぁ。
ちなみに、俺は学年4位。

だから。


「おい、善ぃ。ここっ!ここ教えてくれよー!次俺ここ当たるんだってー」
「善!ここの英文の訳、お前どう訳した!?」
「善!宿題写させて!」


俺は男子に囲まれて予習やら、問題やらに一つ一つぶつかっていた。
まぁ、女子と違うのはその内容が、かなり受験生としてどうかと思うぜ!と言う内容だと言う事だ。


「宿題くらいそろそろ自分でやってこいって」

「いやぁ、ついつい昨日の俺は宿題より睡眠をえらんじゃって。てへ!」

「お前それいつもだろうがー、もう。ほら」

「ひゅう!善大好きぃ!男前愛してる!」


俺はふざけながら本気で俺に抱きついてくるクラスメイトを振りほどきながら、またチラリとヤツの方を見てみた。
うん、ヤツも現在、あのお得意の、少し困ったような愛想笑いで女子達へ勉強を教えている。
お互い大変なもんだ。

俺が何だかよくわからない連帯感をヤツに覚えていると、俺から宿題を奪って抱きついていたクラスメイトが同じくヤツへと目を向けた。


「アイツ、無視する事ねぇのにな。善、マジであぁ言うの気にすんなよな」

「女子に何言われたか知んねぇけど、女子の事も気にすんなよ、善」

「悪いのは向こうなんだからさ」



またしても男子全員からのフォロー大会。
まぁ、そうだろう。
傍から見れば、俺はヤツから挨拶を無視されたように見えたのだろうから。

あれ、最近の俺、傍から見たら相当不憫な人じゃないか。

転校生により、今までチヤホヤしてきた女子からは睨まれ。
転校生により、彼女には捨てられ。
転校生には、無視され。

高校最後の年にしちゃ、けっこうヘビィな出来事ばっかなような気がする。
姉ちゃんの少女漫画の主人公くらいヘビィだ。

けど、それは傍から見た状態であり、実際はそうでない事を俺は知っている。

まぁ、一番上のだけはリアルっちゃあリアルだが。

実際、俺は栞に捨てられたわけではないし、池田がタイミングさえ外さなかったら、きっと挨拶をしてくれていた。
全て、タイミングが悪かっただけの事なんだよな。

そう思うと、俺は少しだけ残念な気がした。

もし……、もし、だ。
あの時、先生が教室に入ってくるのがちょっと遅くて、俺とアイツがきちんと笑顔で挨拶できていたら、今、この状況も少しは何かが変わっていたのだろうか。

まだ、愛想笑いしか見た事ないけど、もしかしたら、アイツの愛想笑いじゃない笑顔を見れるくらいの関係を築けたのだろうか。

そう思うと、俺は本当に、心から、心底、まことに、残念な気がしてならなかった。

やっぱり、俺はヤツが転校して1カ月たった今でも、ヤツのカリスマ臭に当てられた一般人の一人なのだ。


「……あーぁ、なんか……どうして、こう、上手くいかないかねぇ」


俺が小さく呟くと、俺の宿題を持ったクラスメイトがウンウンとしみじみ頷いて俺の肩を叩いてきた。


「だな。人生、上手くいかない事ばっかだ」

「……おい、またお前チャック開いてんぞ」


まぁ、とりあえず、チャックに関しては気を付ければ何とかなるぞ。

その後、ソイツのあだ名は露出狂になった。

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あきゅろす。
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