変わる兆し 「撫子危ねぇ!!」 「っ!?」 ある程度片付いた時、平助が撫子の方を見れば、敵が今にも斬りかかっているとこだった。 慌てて助太刀に入り、斬り伏せる。 どうやら最後の一人だったらしい。浪士のうち何人かは捕縛され、原田が隊士に指示を出していた。 「あっぶねぇー…ありがと平助」 全っ然気付かなかったぜ、と撫子が笑ったのを見て、平助はむちゃくちゃ腹がたった。 「馬鹿っ!!」 ごちん、という音がして、その場に居た隊士達の視線が集まる。撫子の頭には平助の拳が乗っていた。 「いってぇ!!何すんだよ!!」 「お前なぁ!!気をつけろって言ったろ!!」 「それは悪かったって!!殴ることないだろ!!」 怒られているのに反抗してくる撫子。平助はますます腹を立てた。 (人が心配してんのに…!!) 平助が思っていた通り、撫子は前髪のせいで危うく死ぬところだった。そりゃ怒るし殴ってやりたくもなる!! 「ちょっと来い!!」 「はぁ!?何すんだよ!!離せ!!」 平助は撫子の手首を掴んで、そのままどこかに連れ去って行った。 「あの、原田組長…」 原田に声をかけたのは、自分達の組長に置いていかれた八番組隊士達…。 「ありゃ平助も相当怒ってんな。お前らはもう帰って大丈夫だぜ」 「はい…」 その場にいた全員が、二匹の子犬の背を見守った。 ◇◇◇ 「平助ー、何してんだよー??」 平助が入ったのは小物屋。自分のお目当ての物を探していると、撫子が早く帰りたいと懇願してきた。 「俺だって、こんな格好でうろつきたくねぇよ…」 二人は羽織りを着たまま、それだけでも目立つのにましてや先程の斬り合い。所々に血が付いている。 「うん、やっぱコレだな」 そんな中でも、平助が時間をかけて選んだのは、赤い髪紐と薄紫の下地に小さな花が散りばめられた飾り櫛だった。 「どうすんだよ、そんなもん買って」 「組長命令な、お前絶対前髪上げろ」 「はぁ!?」 「切るのが嫌ならせめて括るくらいしろ」 言えば、『あっりえねぇー!!』と撫子は叫んだ。 「切るのが嫌なんじゃなくて、隠したいんだよ!!前にも言ったろ!!」 「そのせいでさっき斬られそうになったの誰だよ!!」 「…っ」 平助が怒鳴れば、撫子は一瞬黙る。自覚はしていたのだろう。 しばらく目を泳がせると、小さく呟いた。 「だから、さっきは本当にごめんって。ちゃんと気をつけるから。これだけは、どうしても見せたくないんだよ…」 目だけは…と。撫子は完全に俯いてしまった。 [*前へ][次へ#] |