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21話捏造 拍手文
注:暴力表現ありです。苦手な方はクローズしてください

端整な顔をなぞるのが好きだった。真っ直ぐに通った鼻筋を指でなぞり、白い頬をやんわりと撫で、今だ眠りの中にいる恋人は、くすぐったさに身じろぎ、虎徹の手から逃れようとする。無防備に眠るその姿は普段の生意気な態度から掛け離れ、幼さすら感じた。

昨夜、翻弄され快楽と愛の言葉を紡いだ唇にそっと触れる。美しいこの男は自分を愛し、欲しいと言った。自分でいうのも何だがこんなただのおじさんのどこがよいのか‥‥‥
僅かな優越感と可笑しさに笑みが零れる。突然、唇に触れていた指を噛まれ、ビクリとすると目の前で閉じられていた瞼が上がりエメラルドグリーンの瞳と視線が絡む。

「くすぐったいですよ。虎徹さん」

「ん‥‥わりぃ‥‥つい。」

「そんなに僕の寝顔は面白かったですか?いつもこそばゆくて目が覚めます。たまには恋人らしくキスのひとつでもされて目覚めたいんですが‥‥」

噛み付かれた指をチロチロと舐めながらバーナビーが挑発的な眼差しで訴えてくる。

「んな、恥ずかしいまねできっかよ。」

仕方ないな‥‥とでもいいたげにバーナビーが虎徹にリップキスを落とす。いつまでもバーナビーのキザな態度に慣れない虎徹は俯き再びシーツに潜り込む。

毎度繰り返される、甘い朝。永遠に続いていくように思えた。もちろん、虎徹もバーナビーもいい大人だ、いずれこの時を思い出し幸せだったと笑い合う日がくることは少なからずわかっていた。自分達は永遠の愛などという、子供じみた夢の世界などには生きれないことを。

殊更、あの頃を愛おしく、哀しいと感じる時が早く来るとは予想だにしなかった。

しかも、自分の中にしか、あの幸せな時間はないのかと思うとことさら哀しかった。







メディアにでる仕事柄、人の視線には慣れていた。しかし、憎しみ侮蔑、憎悪の視線はこれほど痛く苦しいものだとは思いもしなかった。濡れ衣をかけられ、街の中を逃走して数時間、影を色濃く落とす時間はとうに過ぎ、西日がビルの谷間に消え、街が闇を纏いはじめる。

「くそっ‥‥‥なんでこんなことに‥‥」

頭上を飛び交うヘリ、ヒーロー達は血なまこになり自分を探している。昨夜、たしかに自分はサマンサの自宅には居た。しかし、間違っても自分は人を殺めるようなことは産まれてこの方したことはない。なぜ、自分にこのような容疑がかけられたのか・・・・





「いっつ・・・・・」





痛みに思わず、顔を歪める。先程、ヒーローの一人、ロックバイソンことアントニオと対峙した時、怪我をした。ハンドレットパワー無しに突き飛ばされた拍子にアバラがいったようだ。あの、馬鹿力・・・そう独りごちる。「この、殺人鬼やろう!!」そう、言い放った声は凍てつき侮蔑を滲ませていた。アントニオなら、自分のことをわかってくれるはず。そう信じて、疑いを晴らすために接触した。しかし、あいつの口から出たのは信じられない言葉だった。

「アントン!!俺がそんなことをするなんて無いって、お前ならわかるだろう!!?」軋むアバラを押さえ叫ぶと「なぜ、お前が俺の名を知っているんだ!!」と、叫び急に頭を抱え蹲った。自体が飲み込めない俺はとにかくこの場を離れなければと脱兎した。おそらく、アントンと対峙したこの場は他のヒーローにも筒抜けだ。直感で今はまだ、他の誰にも会うことは危険だと察知した。青白い光を纏う。とにかく、身を隠し、状況の把握を・・・。





シュテルンビルドのはずれの廃工場の一角に身を潜め。時が経つのを待つ。この怪我を力で治すには小一時間を要する。呼吸のたびに痛む胸をごまかすように思考をめぐらせる。昨夜の自分の行動とアントンのあの言葉・・・・そして、バニィは無事なのか・・・・。ひどく、弱り傷ついた彼を殴ってしまった。自暴自棄な彼は親かわりのマーベリックさんに全てが嫌になったと告げた。自分が今まで側にいて、彼がいかに弱っているのだと支えなければならないのに側に居られないことがもどかしかった。しかも、追い討ちをかけるようなこの状況。苛立つ心を鎮め、思考を走らせる。「なぜ、名を知っているんだ。」そう、アントニオは自分に言った。20年程近い付き合いである自分にそのようなことを言う意味がわからない。そして、今朝のロイズさんも、自分を不審者と・・・・会社のパスすら照合されなかった。一夜にして、全てから拒絶されてしまっているようだ。なぜ?なぜ?疑問しか頭によぎらない。





「だぁ!!頭使うのは性にあわねぇ!」





そのままずるずると座りこみ。膝頭に頭を埋める。





ズボンのポケットから、カツンとピンズが零れ落ちる。転がり落ちた先に西日が差し込んでおり、いっそう眩くピンズが光る。拾い上げ、しずかに握り締める。





「バニィ・・・・無事・・・だよな?」





どうにか、この状況を打開しなければ!そう決意し、身を潜め全てが闇に包まれる時が訪れるのを静かに待った。



























虎徹が行動を再開したのは能力を再び発動することができ、傷を治してからだった。もともと、堪え性のない性格のためどうしても、早くバーナビーの無事を確認したかった。再度、能力が発動できる時間まで身を潜めるべきだが、逸る気持ちは抑えられなかった。ケータイ端末から拾う情報ではまだ、ヒーローTVは放映中でそこにバーナビーは登場していなかった。自分のおかれた状況は理解している。しかし、どうにも胸騒ぎがしてならなかった。幸い、自分が潜伏しているここはまだ誰にも気づかれてない、倉庫の入り口から外を確認する。皮肉にも、今夜は満月。影が色濃く、虎徹には不利な状況だった。そこに、音もなく青白い光を纏った人間が降り立つ。





「!!」





なんというタイミング、うれしさに思わずその場から飛び出す。





「バニィ!!お前無事で!!」





駆け寄り、ハグをしようと手を伸ばす。





バシッ





しかしその手はバーナビーに届くことはなく、激しく振り払われた。





「?!!」





たじろぐ虎徹を射殺さんばかりに睨みつけるバーナビー、無言で歩み寄り虎徹の頬を叩く、力の限り殴られ身体がよろめき倒れそうになるがそれをさせまいと反対側から殴られる。錆鉄の味が咥内に広がり、激しく揺さぶられた頭部が意識を弱める。





「な・・・で・・・・?」





疑問の言葉を発するもバニィは凍てついた目で虎徹を見下ろし、蹴り飛ばし、衝撃で壁へ叩きつけられる。





「がっ・・・・はっ・・・。」







軋む背骨に息が詰まる。倒れこみそうになる身体、突如首を捕まれ、そのまま壁に押さえつけられる。気道をふさがれ苦しさに虎徹がバーナビーの腕をむが頑として動かず、本気の殺意を感じ取る。





「よくも・・・・おばさんを・・・」





か細い声でバーナビーが憎しみを滲ませ言葉を発する。バーナビーは自分を疑っているのだ。





「俺は・・・殺して・・・な・・・い・・・。」





「だまれ!!」





否定の言葉が罵声にかき消される。





「バニィ・・・・バディの俺を信じろ・・・」





「バディ?ふざけるな!お前は僕のバディなんかじゃあない!!僕のバディは・・・・う・・・あ・・・・」





突然、頭を抱えうずくまる。





「げほっ・・・・ぐっ・・・・バ・・・・・ニ・・・・・」





喉を開放され、一気に流れこむ空気に咽ながらも頭を抱えうずくまるバニィの傍らにより、背を撫ぜる。





「知らない、知らない、知らない!!」





「バニィ・・・・大丈夫だ。俺が側に・・・・」





「触るな!!」





突如、押し倒され馬乗りで首をしめつけられる。





「ぐっ・・・・・」





本気の殺意のこもった力に反射的に抗いバーナビーの腕をなんとか解こうとする。しかし、凍てついた目が憎しみの籠った言葉が全てを物語っていた。バーナビーは自分がサマンサを殺したと信じているのだと。やさしく自分を撫で触れたこの手は自分を殺そうと憎いと言っているのだと。俺のことなど、覚えていないのだと・・・・絶望を感じ、抵抗を止め抗いバーナビーの腕から手を離す。拒絶された世界、愛しているものからの拒絶と憎悪、虎徹を無力にするにはとるにたらないことだった。だらりと垂れ下がる手から抵抗した際引っ掻いたバーナビーの血液が乾いたアスファルトにポトリと落ちる。それと同時に虎徹の頬に涙がつたう。





バニィ・・・





お前はまた、そんな顔をしてしまっているんだな。悲しみの・・・孤独の中に独りで・・・

俺を殺すことで晴れるのなら、それも悪くはないのかもしれない・・・





独り・・・





最後の気力を振り絞り、バーナビーの頬に触れる、そのまま唇に触れ声にならない言葉を紡ぐ。





「      」





これが最後の記憶。

































雨が降っている。





僕は傘をさすことも雨宿りもすることなく、ただただ雨の中佇んでいる。雨の冷たさなんて、とうに感じることなんかなくなっていた。







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あきゅろす。
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