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兎虎 ほのぼの



頼ることなど、考えたくも無かった。

あの日から、修羅の道に生きることを選び、馴れ合いや同情を嫌った。

「あのさぁ、おまえ疲れない?」

疲れるなんて考えたことも無い。

「もっと、肩の力抜いたら?」

余計なお世話だ。

「一応、パートナーなんだからさ・・・」

いらない。

同情も馴れ合いもやさしさも。

いらない。

ただ欲しいのは、あの日の記憶と自分の全てを奪った奴の命だけ。

いらない。

イラナイ。



「バニィ。」



イラナイ。



















「バニィちゃん。お前、どしたの?さっきから難しい顔して。」

ふと、我に返ると見慣れたデスクトップの画面に同じスペルの羅列が並んでいた。

「なんでもないです。」

「そうかぁ〜?」

いつも暢気そうにしているこの男、鏑木・T・虎徹がいぶかしげに顔を覗き込んできた。

「人の心配をするより、あなたは終わったんですか?事故処理報告書。」

いやぁ〜〜と困り顔で頭を掻く姿をみるあたり、まったくできていない様子だ。本当に平和ボケした象徴の人間が隣にいるというだけで腹が立つ。報告書のひとつもろくに作れないでいったいこの人は今まで社会でどうしていたのだろう。

「あなたのおかげで、余計な仕事が僕にまでくるんですから、最低限のことくらいしてくださいよ。」

むっと、しつつもへ〜い。すみませんですよ〜。と、むくれる。本当にこの人は僕より一回りも上の大人なのだろうか。溜息が尽きない。

「なぁ〜、やっぱ。お前、疲れているだろ。」

「別にそんなことありません。」

正直、軽い疲労感は今朝から感じていた。ヒーローとしてデビューしてから、ここ毎日といっていいほどのメディアの取材。そして、ヒーローになれたがゆえ、いままでえられなかった情報端末へのアクセス権利、深夜まであの日の手がかりを追っている毎日だ。

「よっし!おじさんが今日、夕飯ご馳走しちゃる!!」

「けっこうです。第一あなた、人にご馳走する余裕あるんですか?賠償責任山積みなのに。」

「う・・・・・だっだから、家で俺が作ってやるよ!!仕事明けに家に来いよ!」

そういい、無理やり住所の書かれたメモを渡される。

「行きませんよ・・・・。」

溜息混じりに返事をしたが隣で一人暮らし暦、なげぇからな!料理はそれなりにできるぞ!カレーとか、シチューとか、ハヤシライスとか。と、いきまいている。というか、それ、ルーを変えれば具材一緒ですよね・・・。

自分とは、かけ離れた能天気さで腹立たしさより呆れてしまう。自分の世界が乱されるのは不愉快だ。必要以上に関わりたくない人間だ。
















インターフォンを押してから、後悔が押し寄せてきた。スポンサーの意向では不本意なこのパートナーとコミュニケイトを図るよう言われ、オフィスでは同室の女史に帰り際、虎鉄の誘いを受けることを進められた。彼女いわく、人を変えることは難しいが自分を変えることは努力次第だ。と。確かに、一理あると思いここに今居る。

「よう、バニィちゃん待ってたぜ。上がれよ。」

玄関が開くと同時に鼻腔をくすぐる香しい匂いがした。独特のスパイシーな匂いからカレーだとわかった。

「あの、コレ。」

そういい、紙袋を差し出す。

「お。ワインか!ありがとな。」

満面の笑みで室内に案内される。日々疎ましく思っている人間から、屈託の無い笑みを向けられるとチクリと胸が痛んだ。

そんな、僕の心中など意に介せず、おじさんはロゼかぁ〜〜などと暢気にワインを眺めている。

おじさんの部屋はお世辞にも片付いているとは言い難い部屋だったが、シンプルで大きなステレオが目立ち、
そして、棚の上には幼い子供を抱くおじさんと女性の写真。

僕の視線に気づいたのか、

「娘。かわいいだろ?今年で9歳になるんだ。お前、この間会っただろ?スケートリンクで・・・・。」

氷上で救出した少女を思い出し、その時おじさんがなぜか僕にお礼を述べたのを思い出した。

「・・・・・。」

無言のまま、写真立てを覗き込む

「今は、俺のお袋のとこで娘は暮らしている。なかなか会えないんだよなぁ〜」

「奥さんとも?」

「かみさんは、5年前に死んだよ。」

困ったように笑いながら、俺にはもったいないくらいのいい女だった。と、おじさんが言った。

「さ、せっかく、バニィちゃんが来てくれたんだ。飯にしようぜ!ところで、おまえ、ワインはロゼが好きなの?もしかして辛いの苦手?カレーにしたんだけど。」

「辛いのは、あまり・・・・。」

もともと、カレーはあまり食べたことがなかった、学生時代、食堂で口にして以来だ。食べつけないこともあり、元々スパイシーな辛さは苦手だった。

「〜〜〜〜ぶふぅ!!」

いきなり、噴出して笑い出すおじさん。

「なんか、意外だな!クールビューティなバニィちゃんが辛いもの苦手とか、ギャップが。あはは、これがぞくにいうギャップ萌え!!」

「//////べ、べつにいいじゃないですか!それにさっきからバニィバニィって、僕は『バーナビー』・・・・

だろ?」

不意に名前を呼ばれドキリとする。やさしさと大人の色香が琥珀色の瞳に漂う。

「ちゃんと、言えるなら。そう呼んでください。」

ここに来てから、調子が狂う。いつもの自分ならこの人のペースなどに惑わされないのに。

お子様味覚のバニィちゃんには〜〜♪などと暢気に歌いながら、おじさんがキッチンに立つ。

「そこで、おとなしく座ってな。おまえの口に合うように今作り直してやるから。」

おじさんには似つかわしくない手際で調理をする。

「あなたの手は壊すだけでなく、なにかを作ることができるんですね。」

皮肉を交えそう言うと、

「相変わらず、可愛くないことですこと。」

そう言い、カレーを運んでくる。

「ほれ、食えよ。虎鉄スペシャルカレー〜バニィ風味〜」

「変な名前付けないでくださいよ。」

呆れつつも、一口食べると懐かしい味がした。昔、TVのCMで流れていたあの商品の味を母にせがんで一度買ってもらった味に似ていた。

「カレーの○子さま味。昔、楓が小さい頃、普通の甘口でも辛くて食べれない時、かみさんがカレーのルーの他にホワイトシチューのルーも入れて、お子様味にしてたのよ。」

裏技。と、得意げに笑う。

「うまい?」

小首をかしげながら、聞いてくる姿を不覚にも可愛いと感じてしまい、あわててカレーを口に運ぶ。

そっかぁと、一人で納得しておじさんもカレーを食べ始める。

甘口のカレーは僕の体の冷えた部分に染みた。








>バニデレ前のお話。
 ロゼワインを甘口が多いので意外にもバニちゃんはお子様味覚かもと・・・・
 妄想しちゃいましたVv







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