格好つけなくていいよ

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その唇が、俺に向かって口付けを強請るのを想像する。お望みどおり自分のそれで口唇を犯してやって、腰に手を添えて。絡みつく舌の感触に歓喜しながら、二人ベッドにでも倒れこもう。あんたは目を蕩けさせて、もっともっとって、俺の背中に爪の跡をつける。…ああ、可愛いもんだねぇ、本当に。


(…妄想するだけなら、タダだよなぁ)


抱かせてくれとまでは言わないから、せめてキスくらいさせてくれないだろうか。キスさせてください。なんて言ったら、きっと殴られるか、呆れられるか、気持ち悪いって怒鳴られるか。どんな反応でも構いやしないが、嫌われるのは困る。
彼は金髪碧眼、ついでに胸の大きな女が好きだから、自分みたいなガタイの良い男は完全にアウトだろう。せめて俺が女だったら。いや、むしろ、彼が女だったら。そうだったら良かったのに。


「おい、天草?何ぼーっとしてんだ?」
「いて、引っ張んないでくださいよー」


ぐっと髪を引っ張られて、俺は妄想の世界から現実へと帰ってきた。ああ、駄目だ。一人の時に妄想すりゃあいいのに、最近は彼といる時でさえぐるぐる考えてしまう。抱きしめたらキスしたら押し倒したら。そんな妄想、現実にはなりゃしないんだから考えるのを止めてしまえばいいのに、それができない俺はよっぽど彼に惚れ込んでいるのか。重症だ。


「…お前、大丈夫か?具合でも悪いのか?」


ぼんやりとしている俺を覗き込んでくる、心配そうな眼にどきりとする。大丈夫です、ちょっと考え事してただけですよ、と笑うと、心配そうな眼が不機嫌なものに変わった。ぐっと、さらに顔を寄せてくる。


「大丈夫って、どこがだよ?お前最近いっつもそんな調子じゃねえか。どうしたんだよ?」


近い、近い。触れていないのに、体温を感じる。戦人さんが何か言っているが、耳には届いても頭には入ってこなかった。さっきまでの妄想が、頭を巡る。柔らかな唇、熱い舌。


「天草、…あ?」


気付けば、体が動いていた。繰り返した妄想と同じように、手を彼の腰に、もう片方を後頭部へ遣る。想像していたより髪は柔らかく、腰は細かった。思考が追いつかないまま顔を寄せて、唇を重ねる。

頼むから殴ってくれ、突き飛ばしてくれ、罵ってくれ。でないと止まらない。止められない。嫌でしょう気持ち悪いでしょう?あんたが泣くのは、見たくないから、…だからどうか、止めてくれ。
体はもう、本当に止まらなかった。何度も唇を合わせ、柔らかいそれを舌でなぞる。香る彼の匂いに、頭がくらくらした。


「…っ」


…嘘だろう。

するりと、戦人さんが俺の首の後ろに腕を回した。すぐ近くの目が閉じられるのを見て、心臓が一際強く跳ねるのを感じた。閉じられたままだった唇が、そっと開く。まるで誘っているかのように。

ねえ、分かっててやってるんですか。許されたら俺が踏み込んでしまうのを、本当に分かっててやってるんですか?好奇心だけで知っていいものじゃないんだ、これは。

彼が止めてくれないのだから、俺が止めなくてはなない。なのに、体は言うことを聞かなかった。止められるはずも無い、今までずっと、…こうしたかったのだ。
誘われるまま舌を差し込む。素直に絡み付いてくるそれが嬉しくて、深く深く彼の咥内に侵入した。唾液が顎を伝って零れる。時々歯が当たって、カチリと音を立てた。下手糞なキス。でも、技巧を凝らせるほどの余裕はこれっぽっちもない。

やがて、唇を離した。伝う銀の糸を、彼の唇ごと舐める。
今しかない。そう思って、口を開こうとしたのだけれど。俺が口説き文句を思いつくより、彼の方が早かった。


「好きだ」


あんたがそれ、先に言っちまうんですか。おかしくなって少し笑った。
好きだと言われたのなら、もうこれしかない。愛しています。そう言うと、彼は照れ臭そうに微笑んだ。



格好つけなくていいよ
ありのままのあなたがだいすき。







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