main_11|02|27 忘れられないキス(天戦)



学パロ。
戦人の片想いです。
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「俺ね、結構、本気だったんですよ」


(俺だって、本気だ)


ずるずると鼻を鳴らしながら、天草は何本目か分からない缶ビールを煽った。戦人はまだ一本目だというのに、床には無数の中身のない缶ビールが転がっている。それに対応するように、部屋の中はアルコールの匂いで満ち満ちていた。
戦人も天草と同じようにビールを口に含む。それはいつもに増して苦くて、少しも美味しいとは思えなかった。


「愛が足りない、なんて……俺に、どうしろって言うんです。好きだっつったって足りないって言うし、セックスでだって満足出来やしない癖に、文句だけ言われたって、」


泣いてはいないようだが、天草は鼻声だった。お前を振った女は馬鹿だよ。そんな月並みの台詞を投げかけると、天草は隣に座る戦人にぎゅうと抱きついた。


「ば、戦人さん…」
「うげ、苦しいっての、馬鹿」


感極まったように震える背中を強めに叩いてやって、戦人は溜息を押し留めた。俺の気持ちなんて、何も知らないで―――触れられることは、頼られることは、嬉しく、そして苦痛だった。前提に、友人という言葉が立ち塞がる。天草にとっては、友人でしかないのだ自分は。…俺はお前が好きなのにな。泣き言を漏らす天草のように、この言葉を声に出来たらどんなに楽だろうか。

戦人の目が陰る事など気付きもせずに、天草は泣き出しそうな声で愚痴を続けた。普段の姿からは想像もつかない、情けない姿だ。でも嫌悪感は湧かないし、落胆もしない。つくづく自分は馬鹿だった。


「戦人さん、―――」
「…え、」


気付けば、眼前に天草の顔があった。濃厚なアルコールを含んだ吐息に眉を顰めるより早く、天草の唇が自分の口を塞いだ。身体が硬直する。頭は簡単に真っ白になって、自分がすべき動作を見つけられずにいた。
ぬるりと口の中に入り込んだ舌は、ビールの味がする。苦い。その苦さで、ぼんやりと頭が動き始める。
キスに喜ぶ浅ましい自分と、こんなのは間違っていると憤る自分。戦人は、後者を選んだ。震える手のひらを握りしめて、天草の胸を押す。
天草の身体は、弾ける様に離れた。


動揺を見せる天草の目が、困ったように彷徨う。はあ、と溜息をついて、天草は自分の頭を乱暴に掻いた。


「……あの、…その……」
「―――バッカじゃねぇの」
「あ…」


ぼろぼろと流れる戦人の涙を見て、天草は目を丸くした。焦るその表情を、少しだけ殴りたくなった。


「すいません、その、酔ってました…」
「馬鹿だろ、お前。…本当、馬鹿だよ」
「戦人さん…」


捨てられた子犬みたいな目で、天草が戦人を見た。本当に、酔っただけの、誤りだったんだろう。―――腹が立った。なぁ、一体、俺がどんな気持ちで。そう怒鳴ろうと息を吸い込んで、止めた。泣いている所為で喉が熱い。目元を拭ってみるが、涙は収まらなかった。


「―――帰る」
「え、戦人さ…」
「…混乱してるんだよ、お前。顔洗って水飲んで寝ろ。おやすみ」


立ち上がって、玄関に向かう。慌てて追いかけてくる天草は歯切れ悪く、あのとかそのとか、そんな事を言うばかりで、戦人はもっと怒鳴りたくなった。こんな天草も嫌だったし、何より、キスされて喜んだ自分が嫌だった。馬鹿みたいだ。望みなんてないのに、期待を抱く自分が、滑稽で、哀れだ。死んでしまいたくなった。


「…あの、…ば、戦人さん…」
「……じゃあな、また、明日。学校で」


腕を掴む天草の手を乱暴に振り払う。傷ついたような表情を見せられたくなかった。俺だって傷ついてる。気遣ってやれる余裕はない。
乱暴に扉を閉めて、それから天草の住むマンションからさっさと出て行きたくて、戦人は走った。
舌の上には、まだ、ビールの苦い味が残っている。





忘れられないキス
(期待も望みも吐き出したい、全部、全部)


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