main_11|01|21 お隣さんから友人から恋人(天戦)

18歳未満閲覧禁止。
アパートでお隣同士の二人。

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帰宅して、暖房のスイッチを入れる。そして部屋が暖まってきた頃に、天草は狙ったようにいつもこのアパートに帰ってきて、戦人の部屋に上がり込む。それが当たり前の事になったのは、いつからだったろう。

案の定、天草は今日も我が物顔で炬燵に入り込む。向かいに座り、戦人はその足を炬燵の中で軽く蹴った。


「いて」
「ここはお前んちじゃねーぞ。遠慮ってもんがないのかよ、お前」
「はは、いいじゃないですか。同じ部屋にいた方が暖かいでしょ」


このやり取りも随分と繰り返した。それでも飽きずに同じ事を言うのは、もう身についてしまったからだろうか。
アパートで隣同士、近い年齢。天草は頭の回転がいいらしく、話のテンポも悪くない。親しくならない理由が無かった。それでも、ここまで親密になるとは予想していなかった。
(嫌じゃ、ない…けど)


ぼんやりと考え事をしていると、目の前から天草の姿が消えていた。あれ、と思った時には天草は戦人の隣に入り込もうとしていた。
アパートの部屋はそう広くない。当然炬燵も大きくはない。男二人で並んで入るのには、少なからず無理がある。


「、狭い!なにしてんだ!」
「わ、暴れないでくださいよって…この方が温かいですよ」
「……っ」


何が、この方が温かい、だ。
ぎゅうと抱き締められて言葉が詰まる。ふわりと、僅かに香水の匂いがした。男の身体はごつごつとして抱かれ心地は最悪だが、確かに温かい。流されるままに、戦人は天草の背中に自分も腕を回した。その首筋に顔を埋める。天草の匂いが、強くなる。ベタな少女漫画みたいに、胸がとくとくと高鳴った。
 
このまま、抱き締められて眠りたい。一日の疲れを溜めた身体と脳がそう訴える。天草の腕の中は安心した。


「――――ん、…ひっ!?」


すっかり弛緩していた所に、天草の手が無遠慮に足の間をズボンの上から撫でた。思わず肩を跳ねさせ声を上げる。


「ばっ…馬鹿、何してんだよ!どこ触って、っうあ…っ」
「やりましょうよ、戦人さん」
「っお前、最近そればっかりじゃねーか…!」
「寒いと人肌が恋しいんですよねぇ…」
「そういうのは彼女にしてもらえよ…!」


天草が驚いたように手をぴたりと止めた。それを見た戦人が同じ様に目を見開いた。何が天草を動揺させたのか、突然すぎてまったくわからなかった。
少し間を置いて、困った風に目を細めて天草は溜息をついた。


「…彼女いませんよ、俺。…第一、いたら戦人さんとこんな事してませんよ」
「…え?いない…?」
「いません。…もしかして戦人さんの中で俺って、…セフレか何かなんですか」
「…お前は俺を何だと思ってたんだ?」
「……あのね、俺だって傷つくんですぜ」


天草の目が本当に傷ついたような色を見せて、戦人は焦った。

…天草の事は、大事だと思っている。セフレだなんて思っていない。いつの間にか肌を重ねる様にはなってしまったが、それでもだ。だが、この反応を見るに、天草にとってはそのどちらでもない。この関係は―――


「……俺はあんたの事、………」
「…………何だよ」
「…やっぱいいです」
「なんでだよ!」
「…言っても虚しくなるのが目に見えてる」


中途半端にするな、ちゃんと言えよ。言ってくれなきゃ、わからない。
そう言おうとするより先に、天草にズボンと下着を一気に脱がされる。下半身が露わになる羞恥に、戦人はかっと頬を赤く染めた。剥き出しの肌がひやりと冷える。
もやもやとした感情が、腹の中で沸き立つ。









向き合う体勢での行為は、少し苦しい。苦しいが、それを上回る快感に塗り潰されて、いつの間にか気にならなくなっていた。後ろについて体を支える手が震える。繋がった所が熱い。それだけでなく、体中が火を噴いたように熱い。(おかしく、なりそうだ)


「んっ、ふ…んう、あっ、ひぅッ、―――あまく、さ、っん…!」


アパートの壁は薄い。あまり大きな声を出したら、他の住民に聞かれてしまう。
必死に抑えようとしても声は簡単に漏れてしまう。この体勢では手で口を押さえることもできないし、何かを噛んでやり過ごすこともできない。他人にこんなはしたない、情けない声を聞かれるなんて我慢できないのに。声は殺しきれない。


「…戦人さん、声、聞かれますよ」
「っん、ふう…!わ、分かってら、そんなの…っあ…!」


声を抑えるのに集中しなくてはいけないのに、先程のやり取りが邪魔をする。どうして天草は、傷ついたような表情をしたのだろう。―――本当は分かっている、癖に。


「あ、天草…!」
「―――なんです?」
「はあ…ッ、お、お前、なんて言おうとしてたんだ、よ」
「…なんて?」
「俺の、事―――」


それで通じたらしい。天草は苦い表情をした。気まずそうな目が、ついと逸らされる。


「…いいじゃないですか、そんなのどうだって」
「どうでも、良くないんだよ、俺が、…言えよ…ッ」
「………」
「っあ、…わっ…!ひぁ、ああ…ッ」


身体を倒される。中で角度が変わる感覚にぎゅっと目を閉じた。なんとかやり過ごして目を開けると、天草が肩口に顔を埋めてきた。汗のにおいに混じって香水の匂いが鼻に届く。


「…あんたの事、好きです」
「……うん」
「……好きじゃなかったら、俺は男なんて抱こうなんて思いません」
「うん…」
「………それだけですか」


唯でさえ弱々しかった声のトーンが、さらに落ちる。その背中をよしよしと擦った。
すうと息を吸い込む。今言わなくて、いつ言うのだろう。緊張した。どきどきした。せめて、伝えることを、間違えてしまわないように。


「俺だって、…お前が嫌いだったらとっくに引っ越してる」
「…戦人さん」
「お、…男に突っ込まれるなんて、俺だって、…好きな奴じゃなかったら絶対御免だぜ」


変な話だ。順序がおかしい。
身体を何度も繋いでいるのに、今更、お互いの気持ちを確かめ合うなんて、滑稽にも程がある。


それでいい、俺たちらしくて結構じゃないか。



お隣さんから友人から恋人

毎日毎日、距離は少しずつ縮まっていって、やがて


あきゅろす。
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