main_11|01|09 ぼくらは気付かない(天戦)


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学パロ。水面下で仲が悪い二人。


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訳もなく、嫌いな人間なんていうのは、少なからずいるものだ。

それは言葉通り、本当に嫌いな理由が無いのではない。理由があるはずなのに、それが自分では何なのか分からないのだ。だから、嫌いという感情ばかりが先走る。何故嫌いなのか、忌まわしいのか、見つけられないまま。

けれどそれを表立たせる訳にもいかないから、今まで、薄っぺらい上っ面だけの関係を続けてきた。それは恐らく彼も、同じ。自分たちは嫌い合っている。言葉にせずとも、空気が訴えていた。


「っん、ん、ふ…っ」


彼の声が嫌いだった、笑顔が嫌いだった、姿を見るだけで苛々した。ああ、でも、喘ぎ声は嫌いじゃない。
自分が嫌っている人間に、無理矢理犯されて屈辱に歪んだ表情。涙で濡れた瞳が、確かな殺意を湛えて射抜いてくる。嫌いじゃない、その表情は。大安売りみたいに軽々しく誰にでも向けられるいつもの笑顔より、幾らかマシだ。嫌いじゃない。むしろゾクゾクして、興奮した。


繋がった所は、赤い血と、白い精液とで、濡れていた。可哀想に。しばらくは痛むだろう。天草は他人事のように、頭の隅で思った。

屋上のコンクリートの地面も、ところどころ体液が飛び散っていた。終わったら片づけなくては。
(でも、いつ―――)

終点なんて、まだ見えていない。



「っ、ちく、しょう、っしね、死んじまえ、この野郎…、っい、ぁあ、っあ…!」


ボロボロ泣きながら、呪いを吐きながら、それでも敏感に反応する体の浅ましさには、本人が一番気付いているだろう。認めたくないに違いない。誤魔化す様な時折の罵声が、何よりの証拠に思えた。


(お互いに嫌い合っているのに繋がっているなんて、滑稽だ)


「―――ひぃ、んッ…!」


しつこくしこりの様なものを擦るのを繰り返していると、戦人は呆気なく果てた。天草を殺そうとするかの様だった目が、とろりと快楽に塗り潰される。


「ひっ……ひゃはは、あんた、いい顔してるじゃないですか」


よく聞こえる様に、戦人の耳元で言ってやる。ついでに耳たぶを甘噛みすると、また声が上がった。女みたいな高い声。もっと聞きたくて達したばかりの彼のものを握る。期待を裏切らず上がる声は、やはり高いものだった。

彼を自分の思いのままにするのは、随分と気分がいい。いっその事彼の全てを思うままにできたらどんなにいいだろう。


「んぁ…!っや、めろ、離せ、へんた、あッん………っ死ね…!」
「…あーあ、可愛くねぇの」
「お前に、可愛いなんて、…おも、われ…っあ、や、―――ッ!」
「俺だって、可愛いって言って喜ばれても嬉しくないですよ、ちっともね」


自分の言動で彼が喜んだりするなんて御免だ、寒気がする。好き合うのは絶対に嫌だし、片方だけが好意を持つのも気持ちが悪い。肯定的な関係など願い下げだ。
それならば、いっそ―――そうだ、従順であればいい。腹の底で俺を憎んで、殺そうとしながらも従順な彼がいい。

どうでもいい他人に向けるのと同じ笑顔を俺に見せながら、その内側で誰にも向けたことのない、憎悪を、俺に。ぶつけてくれればいい。自分も同じように彼を憎む。なんて清々する。


彼の胸で、赤く主張している飾りに強めに噛みついてみる。ぎゅうと中が締まるのを感じた。やめろ止めろ死ねしんじまえ、そう繰り返す声が、はっきりとした拒絶が心地よかった。





ぼくらは気付かない

(愛の対義語が何かなんてそもそも知りもしないし、ましてやこの感情に名前を付けようなんてことはしようとは思わなかったから)






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