main_10|10|11 結婚しようよ(天戦)


学パロ
甘くてほのぼの?

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グラウンドから、サッカーをしているらしい声が響いてくる。パス、パス!そんなに何度も言わなくたってきっと聞こえてるさ。そうは思っても、いざ自分も、大きな声でパスと叫んでいる誰かと同じ立場に立てば同じように何度も続けてパスと叫ぶんだろう。くすりと笑いそうになって、けれど授業中だと言うことを思い出して口端を上げるに留めた。
教師が教卓で何かを言っている。ただ、内容までは理解できなかった。正確にはできないのではなく、しない。午後の授業に集中力など残っている筈も無い。

意識をグラウンドから、前の席の天草に移す。机にうつ伏せになっていて、寝ているのは明白だった。教師も気付いているだろうが、咎めはしない。天草が授業中に寝ているのはいつもの事だし、その癖成績も悪くない(むしろ良い方だ)から放置されている。


天草のうなじの上で、縛られた髪が尻尾みたいだった。思わず掴みたくなるが、授業中だから、と流石に我慢する。
1年の時はもっと短くて、小さな尻尾がぴょこんと生えているみたいだった。今では随分長い。今年で卒業なのだから当たり前か。時間が経つがあっという間過ぎて、不思議な感覚だ。


卒業して、それから、俺たちはどうなるんだろうか。







「って、さ。思ったんだよ」


授業も補習も終わって、誰もいなくなった教室で、グラウンドを眺めながら戦人は天草に言った。
隣で同じようにグラウンドを眺めている天草に目を遣る。微妙な表情をした天草と目があった。怪訝とも言い切れないし、不機嫌とも違う、形容し難い表情だった。


「…大学生になるんじゃないんですか」
「そういう事言ってんじゃねえっての」


存外につまらない返答を寄越してきた天草を睨むと、困った顔をされた。


「…それは、つまり、変化が欲しいってことですか?」
「いや、別にそうじゃないけど」


変化が欲しい訳じゃない。
ただ、高校を卒業してもこの関係がずっと続いていくような気がして、けれど同時にそれが疑わしい。本当に、ずっとこの関係でいられるんだろうか。次の瞬間にはもう違うものになってるんじゃないだろうか。安心と不安が混じり合って、だから今がずっと続けばいいと思う。


「……」


もう一度天草を見ると、もうこちらを見ていなかった。グラウンドを眺めながら、顎に手を遣って、難しい顔で黙り込んでいた。真剣に何かを考えているその様子が珍しく、戦人はその横顔に見入った。


「…天草?」
「……戦人さん」
「なんだよ」
「卒業したら結婚しますか、俺と」
「はあ!?」


予想もしなかった言葉に、素っ頓狂な声が上がった。たっぷり数十秒をかけて戦人は漸くその意味を理解して、最初の天草のような微妙な顔をした。


「…天草、男同士は結婚できないんだぜ?」
「それくらい知ってますよ、馬鹿にしてるんですか」


じゃあ結婚って何だ。自分達には縁の無いはずの言葉過ぎて、現実味が何も無い。


「籍なんてどうでもいいんですよ。いざとなれば外国行けば、同性婚ってできますし」
「じゃあいいだろ、別に。結婚とか」
「…戦人さんって、もしかして俺の事そんな好きじゃなかったりしますか」
「…恥ずかしいこと聞くな馬鹿」


頬を赤らめて顔を逸らした戦人を見て、天草はほっと胸を撫で下ろした。


「で、戦人さん、俺が言いたいのはですね、」
「…なんだよ?」
「卒業したら、毎朝俺の為に味噌汁作ってください、って事を言ってるんですよ」
「…え」
「一緒に、暮らしませんか」


口をぱくぱくとさせる戦人とは対照的に、天草は余裕有り気に微笑んだ。ドラマのワンシーンみたいなそれに、頬に熱が集まる。恥ずかしさと緊張で逃げ出したいのを必死に堪えて、ややあって戦人は頷いた。



結婚しようよ






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